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【コラム】

21世紀のラグジュアリー論 イノベーションの新しい地平

ミラノ在住のビジネスプランナー安西洋之氏による連載。テクノロジーだけではなく、歴史や文学、地理、哲学、倫理が主導する21世紀の「新しいラグジュアリー」について考察しています。
コラム2021.08.02

Vol.22 異なる文化の要素を慎重に扱う


2021年8月号

 

 

この数年、「文化の盗用」と呼ばれる行為が話題になるようになった。注目を集めやすく、経済的な影響も大きいトピックだ。それにもかかわらず、ハイブランド企業といえども十分な対策と対応の方法が確立されているとは言い難い。

 

 

異文化への理解不足が起こしたトラブル

 

2019年初め、イタリアのグッチが顔の下半分を覆う黒いニットのトップスを発表した。口に当たる部分には穴があいており、穴の周囲は唇を模して赤い。この商品はアフリカ系の人たちへの差別を生むと批判を浴びて販売中止になった。

 

2021年2月、フランスのルイ・ヴィトンが新しいセーターを発表した。ジャマイカ文化に捧げる意図の表明として緑、黄、赤の3色を配していた。ところが、この商品はソーシャルメディアで叩かれた。というのも、商品説明に「ジャマイカの国旗に着想を得た」といった記述があったのだが、実際のジャマイカの国旗の配色は緑、黄、黒だからだ。緑、黄、赤の配色はエチオピアの国旗である。その結果、ルイ・ヴィトンはこの商品をラインアップから取り下げざるを得なくなった。

 

この類いの異文化理解にまつわるトラブルは枚挙にいとまがない。

 

2021年3月、イタリアのヴァレンティノの公開した動画が炎上した。日本人女性モデルが着物の帯と思われる上を靴で歩き、畳の上で靴を履いていた。日本文化への敬意が示されていないと批判され、やはり動画は削除された。

 

かつて、と言っても10年くらい前までだが、「今年のトレンドのヒントは中央アジアの生地にある」「デザインのヒントはアフリカにある」とコンセプトの由来を語るのは、先進国のデザイナーにとって普通の振る舞いであった。テキスタイル、ファッション、インテリア、音楽、言語など、いずれの分野においても、異なる文化の香りや要素を取り入れるのは、一定の手法として好意的に受け止められることが多かった。イノベーションの鍵は距離の遠い要素同士を結び付けることであるとも認識されている。

 

しかしながら、この数年で潮流が大きく変わった。英語でCultural appropriation(「文化の盗用」と訳されることが多いが、ここでは「異文化要素の採用」と訳したい)と呼ばれる行為として話題になるようになったのだ。「盗用」と訳すとネガティブなニュアンスが強いが、appropriationは「他のグループに所属する要素を採用する」という意味であり、必ずしもマイナスのイメージの言葉ではない。

 

 

 

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