Vol.10 生産性向上とラグジュアリー戦略
日本の中小企業の課題の一つに挙がる「生産性の低さ」。 この課題を解決するヒントとして、ラグジュアリーやイタリアの高級ブランドのビジネスの仕方について紹介したい。
高品質・低価格の戦略を見直す
日本企業の「生産性の低さ」はこれまでも問題視されてきたが、コロナ禍でさらに浮き彫りになった。
この問題について、かつて日本の金融不良債権問題を的確に指摘した元ゴールドマン・サックスの英国人エコノミストであるデービッド・アトキンソン氏は、東洋経済オンライン(2020年5月14日、東洋経済新報社)において次のように記している。
「私が予測するのは、多くの人が『低価格で商品やサービスを提供することが、社会的善だ』という日本の常識が『妄想』にすぎなかったことを、ハッキリと認識するだろうということです」
数多くの低価格商品をそれまで手に届かなかった人にも届けることを「民主化」とし、使命感を持ってビジネスにするのは良いことである。だが、それを維持するには、グローバルにサプライチェーンを築ける企業規模がないと厳しい。これは多くの中小企業にとって勝負するのが難しい領域だ。
また、アトキンソン氏は「当然ですが、高品質・低価格の戦略を実行している企業の生産性は低くなります。企業の生産性は『付加価値総額÷従業員数』と計算されるからです。付加価値総額は、大雑把に言うと売り上げから外部に払うコストを差し引いた金額なので、どうしても売り上げ、すなわち単価が影響します」とも記している。
極論ではあるが、日本の中小企業の生産性の低さは、価格の低さに起因していると言える。価格の低さ故に、管理費の効率化を図るため、システムをデジタル化することすらかなわないと想像できる。
一方、新型コロナウイルスの感染拡大によって、不透明あるいは長すぎるサプライチェーンに依存するのはリスクが高い、と多くのビジネスパーソンが気付いた。今後は「多少、原価が変動しても吸収できるくらいの高価格設定」をテーマに戦略を練ることになるだろう。
本連載で繰り返し述べてきたように、単に高額であるだけがラグジュアリー商品の条件ではない。しかしながら、アトキンソン氏の指摘にあるように、今後は、高価格を視野に入れる必要があることを考慮すると、ラグジュアリーの世界を知る有益性は増すことになる。