Vol.9 パンデミックがラグジュアリーの方向を変えるか
新型コロナウイルス感染拡大の影響で各国の経済活動が大きなダメージを受ける中、欧州のラグジュアリー企業はどのような取り組みを行っているのか。4月初め、ジョルジオ・アルマーニがファッションメディアに宛てた公開書簡とともに紹介したい。
アルマーニが考えるこれからの業界
米国のファッション業界誌『WWD』は、「今後はファストファッションから“スローファッション”になっていくのではないか」との記事を掲載した(INFASパブリケーションズ「WWD JAPAN.com」、2020年4月2日)。その記事に対するコメントとしてジョルジオ・アルマーニが出した公開書簡(同、2020年4月10日)が話題である。
2020年2月後半から欧州各地で猛威を振るい始めた新型コロナウイルスにより大打撃を受けているファッション業界の盟主が、かなり辛辣な言葉を用いながら、これまでの業界の慣習に反省を迫っている。
「衣料が過剰に生産されている現状や、秋冬物が6月に店頭に並ぶなど実際の季節とはかけ離れたスケジュールで販売されていることなど、ファッション業界のばかげた慣例について勇気を持って書いてくれたことに拍手を送りたい」
「私も何年も前から、ショーが終わった後の記者会見などで同様の疑問を投げかけてきた。しかし耳を傾けてもらえず、堅苦しい倫理観の持ち主だと思われるだけだった。この未曽有の危機の中、ファッション業界も難局に直面しているが、これを乗り越えるには慎重に考えて賢くスローダウンするしかないだろう。それはわれわれの仕事が持っていた価値をよみがえらせ、商品を手にした顧客に本当の価値を理解してもらえるようにする道でもある」
「ラグジュアリーとは手間と時間がかかるものであり、大切に愛されるべきものだということを忘れて、ファストファッションのように途切れなく商品を供給することでより多くの売り上げを得ようとしてしまった。ラグジュアリーは速いペースでつくれるものではないし、またそうあってはならないものだ」
これらは、猛烈な自己批判だ。納得のいかない慣習に流されてきた自分とは決別したいとの宣言でもある。
今回は、アルマーニをここまで言わしめたコロナショックの観点からラグジュアリーを再考したい。