Vol.26 よそ者はなぜ成功したか
北村 森
みそ蔵と酒蔵
しばしば、地域を元気にするのは「よそ者、若者、ばか者」といわれますが、話はそんなに簡単ではないようです。各地にはそれぞれ古くからのしきたりがあり、保守的な考えが横たわっています。そこによそ者たちが入れば、それまで地域を育んできた人たちが違和感を抱くのは、当然のことでしょう。
今回取材してきたのは、2つの老舗です。1つはみそ蔵、もう1つは日本酒の蔵。どちらも、上越新幹線の燕三条駅(新潟県)から車で30分前後走った、昔ながらの文化が根付く地にあります。
共通しているのは場所だけではありません。まず、この2社ともに「老舗の家業を、他市に本拠のある企業が買収している」こと。次に、「今、醸造の陣頭指揮を執るのは、いずれも、地域外から入ってきた『よそ者』であること。さらには、その2人とも蔵に乗り込んできた時点では、醸造に関してほぼ素人であった」ことです。
う〜ん……。ちょっと考えただけで、あつれきが起きること確実、というふうに思えてきます。
しかし、どちらの蔵も、経営が立ち直ったばかりか、それぞれの商品の味そのものが再び高い評価を得ているのです。
いったい何があったのか。現地を訪ね、取材しました。
まずは越後味噌醸造。旧吉田町(現燕市)で1771年に創業した、古くて小さなみそ蔵です。
それまでは家業として奮闘してきた蔵でした。しかし、後継者難と経営環境の悪化から、この蔵は2015年、新潟市に本拠のある食関連の企業に事業を引き継ぎました。
蔵に出向してきたのは、30代の男性。その木龍康一さんが代表取締役社長に就きました。旧吉田町とは縁がなかったそうです。みそづくりに関して若干の知識はあったものの、製造の指揮を執りながら、経営の立て直しを図るとなると、そう簡単でないのは当たり前です。