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【メソッド】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
メソッド2016.11.30

Vol.15 使い手の想像力をかき立てる:アップ・キュー

 

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2016年9月に出荷が開始されたアップ・キューの電動バイク『UPQ BIKE me01』。カジュアルな方向に思い切って振ったデザイン、12万7000円(税別)という低価格などが反響を呼び、予約受け付け初日だけで100台を超えるオーダーが入ったという

 

アップ・キューといえば、若き女性社長のアイデアを存分に生かした商品群で知られる家電ベンチャーですね。流行のカラーリングを大胆に取り込んだデジタル系商品などが注目されています。
そのアップ・キューが、この秋より、新たな商品ジャンルに挑みました。2016年8月に予約受け付けを開始、9月に出荷を始めたその商品というのは――電動バイク。商品の名は『UPQ BIKE me01』といい、車両本体価格は12万7000円(税別)で、大手バイクメーカーによる既存の電動バイクのおよそ半額となっています。

 

 

ベンチャーに好機

四輪や二輪といった乗り物は、従来、大手どころの専業メーカーが市場を握っていました。エンジンを開発するには膨大な費用がかかりますし、構成する部品点数も多い。量産するとなると、当然、そこにも巨額の投資が必要になってくるからです。
一方、モーターで駆動する電動モビリティーの場合、高性能なモーターを仕入れることができれば、エンジン駆動の四輪や二輪に比べると、開発と量産のコストは格段に抑えられます。あとは、デザインワークや安全性の確保、生産体制の構築をすればよい。ちょっと乱暴な表現になるかもしれませんが、斬新なアイデアをもってベンチャー企業が市場に割って入れる可能性は、飛躍的に高まっているのです。
実際、ここ数回の東京モーターショーの会場を巡ると、全国各地のベンチャー企業の手による電動モビリティーがいくつも発表されています。面白いコンセプトのモデルも存在して、今後の展開に期待が持てるほど。もちろん、販路をいかに見いだし、ビジネス上の成功を収めるかについては課題がありますが、モビリティー市場がこれまでにない形に変わるかもしれないという萌芽(ほう が)を十分に感じさせます。実際、北米では、電気自動車開発のベンチャー企業であるテスラモーターズが、市場を席巻し始めています。
アップ・キューの話に戻しましょう。なぜ『UPQ BIKE me01』はここまで話題を呼んでいるのでしょうか。
もちろん、アップ・キューという企業自体が、設立以来、業界内外からの注目を集め続けているという理由もあります。その同社が、電動バイクというジャンルで商品発売に打って出たというだけでもニュースです。
しかし、それだけではありません。商品自体に、消費者を惹(ひ)きつけるものがあったからというのは間違いないでしょう。
写真を見ればお分かりのように、そのデザインは実にカジュアルで、これまでバイクに興味のなかった層、もっと言えば、電動バイクを購入することなど考えていなかった層にも効果的に刺さる外観であると思います。

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商品だけでなく、販売チャネルも斬新。東京・二子玉川の蔦屋家電でも取り扱う。同店によると、バイク好きの男性のみならず、若い母親層からも熱視線を集めているとのこと。これは異例の反響といえそう。この電動バイク、ネットでも販売しているというのがまた興味深い

 

 

楽しい走り心地

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バッテリーは取り外せ、自宅やオフィスで充電できる。100V電源を使って3時間半でフル充電となり、その際の航続距離はカタログ値で35km

 

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『UPQ BIKE me01』の特徴の1つに、車両を折り畳めるという点がある。手順は思いの外、簡便であり、慣れれば数十秒とかからず、コンパクトに畳める

 

 

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バッテリーは取り外せ、自宅やオフィスで充電できる仕様。3時間半でフル充電となり、カタログ値では35kmの走行が可能とのこと。実際の走行可能距離はもっと短いでしょうが、通勤やちょっとした移動での使用ならば、致命的な短さではないと言っていい。1回の充電にかかる電気代は9円程度です。
至ってシンプルなデザインであり、荷物を収納する場所はありません。その代わり、フレームにくくり付けられるレザー製の小さなバッグを別売りしています。ショルダーバッグにもなる、心憎いオプション品です。
私も実際に乗ってみました。車両本体の軽さの効用でしょうか、軽快な走りでした。車重18kgというのは大手メーカー製の半分程度。それ故に超低速域ではふらつきがあるものの、時速20~30kmの巡航速度に達すれば、気持ち良く走れます。加速性能も、まあ許容範囲でしょう。流れに乗れないことはありません。
それより何より、モーター駆動ならではの滑らかに走る感触が心地よいと感じさせます。「ヒューン」というモーター音だけを鳴らし、自分の体を乗せて走ってくれる、その感じが楽しいのです。それは大手メーカーの電動バイクでも体感できる話ではありますが、アップ・キューの電動バイクは、そこにデザイン性や車体の軽量感も加わっている。
「乗り物として面白い」というのが、私の率直な感想です。

 

 

話題のショップで販売

この『UPQ BIKE me01』、その販路にも面白さがあります。
既存のバイク流通には乗せず、家電量販店のリアル店舗、あるいはネットを通した販売なのです。東京・二子玉川にある話題のショップ、蔦屋家電でも販売されています。
このことも、新たな消費者層の購入を喚起するポイントになっているでしょう。実際、ある販売拠点では、予約受け付けから1カ月で数百台単位の受注があったようです。この手の商品としては異例と表現できます。
メンテナンスの体制が気になりますが、アップ・キューにメールすると、同社が連携する最寄りのバイク販売店に部品が届き、そこでの修理を指定されるという合理的な仕組みだそうです。
これだけの熱視線を浴びている『UPQ BIKE me01』ですが、実は似たようなシンプルなデザインの電動バイクは、国内外ですでに登場しています。同社の電動バイクばかりがニュースとなっていますが、ほぼ同じデザインの機種が、確かに存在するということ。
アップ・キューに確認すると、どこかの企業からのOEM供給を受けているわけでは決してないそうです。電動バイクの世界はモジュール化が進んでいて、完成品メーカーはそうした複数のモジュールを組み合わせて製品の仕様を決定する流れが定着しつつあるらしい。アップ・キューはその動きを敏感に捉え、上手に商品開発をし、かつ、プロモーションで成功したという話です。
ここまでお伝えしてきた内容をまとめましょう。
まず、電動バイク市場への新規参入が容易な環境が整いつつあったこと。少なからぬ消費者がベンチャー企業の商品に反応したこと。それが『UPQ BIKE me01』の“好発進”につながったといえます。
今までになかった商品であるため、消費者にすれば、恐らく、安全性や耐久性、メンテナンス体制にいくばくかの不安を覚えたのではないかと私は想像します。それでも、商品の魅力が勝ったのでしょう。

 

 

どこで使うか

『UPQ BIKE me01』の、もう1つの大きな特徴を、ここでお伝えしましょう。この電動バイク、小さく折り畳むことができるのです。手順を覚えれば、思いの外、簡単に折り畳めます。
そのデザイン性や走り心地と相まって、私は、この1台の電動バイクが、1つのメッセージを発している気がしてなりません。
「あなたはこの電動バイクをどのように使いますか」と、ユーザーのセンスが厳しく問われている気がするのです。その挑戦を受けて立ってみたくなる……。
これは、商品づくりの上では重要なポイントではないでしょうか。“新しくて、いい商品”では、得てして、作り手と使い手の間にこうした会話のようなものが成り立っている印象がありますから。
『UPQ BIKE me01』、私なら自分の車に積んで旅に出ます。リゾート地に到着したらラゲッジスペースから降ろして、美景の中で、これを駆ってみたい。
どう使うかを、消費者に楽しく想像させる商品というのは、やっぱり強いですね。

 

 

 

 

Profile
北村 森Mori Kitamura
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。
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