Vol.10 「町を元気にする」とは
北村 森
2016年7月号
北海道新幹線が2016年3月に開業しました。その効果について、「北陸新幹線で見られたような地域活性化は期待できない」とか、「実際の乗車率は低い水準」など、何かと声が上がっていますね。
そうした視点での議論も重要ですが、今回は別の角度から話をしましょう。
開業に関して賛否はあれど、新幹線ができたのは事実。では地元として何をなすべきか、という観点から1つの事例をご紹介したいと思います。
反省点を忘れず
本州から新幹線に乗り、青函トンネルを抜けると、北海道最初の駅として迎えてくれるのが、木(き)古(こ)内(ない)駅です。ただし、新函館北斗駅に向かう全ての新幹線が停車するわけではありません。しかも、木古内はごく小さな町です。
木古内の人々には苦々しい記憶があったといいます。かつて、特急列車がこの木古内駅に停車することが決まり、町は沸き立ちました。ところが、特急停車による経済効果はごく限られ、期待は外れてしまったのでした。
そのときの反省は「何もしなければ、人は木古内に降りてくれない」というもの。「特急が停まる、万々歳だ」と喜んでいるだけでは、状況は何ら変わらないという教訓を得たのです。
実際、他の地域を取材していても、それが真理のように感じます。九州新幹線が全線開通したとき、沿線の全県、全ての町が見事に潤ったかといえば、そうではありませんでした。終着駅である鹿児島中央駅からさほど遠くない地域でも「新幹線効果はゼロ」という声が相次いだ自治体を、私はよく知っています。「新幹線が通るから」と受け身の姿勢を続けていては、結局は失望ばかりが残るということでしょう。
それでは、今回、木古内は何をしたか。「特急停車時代の反省を生かそうと動いた」と聞きました。
木古内の駅舎を出てすぐのところに、真新しい建物があります。「道の駅 みそぎの郷 きこない」です。
新幹線が開通する前の2016年1月にオープンしたこの施設は、3月に早くも来館者数5万人を達成。4月には10万人を突破、そして5月には20万人に達しています。
特急列車が停まっても静かなままだった、この小さな町。それなのに、このような驚異的な集客を果たしています。GW期間があったとはいえ、4月半ばから5月半ばまでの1カ月間だけで10万人を集めたことは、称賛に値するとしか言いようがありません。
ちなみに当初の目標は、この実績の半分から3分の1以下だったといいますから、やはりすごい話です。