Vol.8 挑戦を受けて立つ
北村 森
2016年5月号
今回は、どこにも売られていない“製品”のお話をします。
モノづくりの街として知られる、東大阪の町工場が力を合わせて挑んだ、あるプロジェクトのことをお伝えしましょう。以前、『経営視座』2015年7月号に紹介した事例の続編です。
東大阪ブランド推進機構という組織は、町工場の社長と東大阪市が中心となり運営されています。金属やプラスチックの加工を得意とする小さな町工場がひしめいている街らしい組織ですね。
あえて無理を

モノづくりの街を支える東大阪ブランド推進機構が、2015年春、地元の小学生に呼び掛けた「大切なだれかのために考えた発明品アイデアプロジェクト」。230を超えるコンテスト応募作から、低学年部門で優秀作に選ばれたのが「カニニカ」。おばあちゃんに使ってほしい、カニの殻むき機だ。東大阪の町工場は、このアイデアをもとにして実際に製品をつくり上げた
2015年春、同機構は地元の小学生を対象に「大切なだれかのために考えた発明品」を募集しました。
東大阪の小学校に通う児童たちは、1枚の応募用紙に、思い思いのイラストを描きました。そして、誰のために、どんなものを思い付いたのか、短い作文に綴りました。このプロジェクトは初めての試みであり、同機構の理事たちが小学校に足を運んでお願いに当たったそうです。応募総数は230を超えたと聞きますから、かなりの反応だったと言っていいでしょう。
低学年部門で優秀作品に選ばれたのは、小学2年生の少年が考えたものでした。病気がちで手先が不自由になったカニ好きのおばあちゃんに、カニの殻むき機を贈りたい。そんなアイデアでした。
町工場の人たちがこの作品を選んだのには理由がありました。
今回のプロジェクトでは、ただ単に小学生のアイデアを表彰するのではなくて、町工場の力を結集して、その作品を実際に製作してしまおうという目標を掲げていたのです。
町工場を営む、同機構の理事はこう振り返ります。
「簡単につくれると分かるようなものではなく、町工場の技術をもってしても難しいものに挑戦してこそ、意義があるはず」
「確かにそうだ」と私も思いました。というのは、過去に東大阪の町工場を取材する中で、彼らからさまざまな話を聞いていたからです。
子どもが発案したアイデアを形にしてしまうという今回のプロジェクトには、3つの大きな意味があると、私は感じました。