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【コラム】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム2022.02.01

Vol.77 その商品に必然性はあるか?:鋳向屋

鋳向屋「繋げる小物ハンガー」
ネクタイや帽子、カバンなど小物を収納するハンガー。フックを連結させてカスタマイズができる
792円(税込み)~

 

 

展示会でよく目にする商品

 

全国各地には、さまざまな職人仕事が根付いています。織物、漆塗り、螺鈿、そして金属加工。

 

ただ、どの分野も厳しい状況にあるケースが多いのは事実です。下請けでの製造形態ですと、この時代、どうしても価格の折り合いが付きにくいですし、需要そのものが減少しているという側面もあります。そうなると、製造に携わる小さな事業者が自ら完成商品を開発して販売に乗り出すという方策が考えられますね。実際に地域産品の展示会などを取材すると、さまざまな商品を目にします。

 

しかしながら、率直な印象を述べますと、それら全てに商品力があるとは言い難い。伝統的な技法を21世紀のライフスタイルに無理やり持ち込もうとしても、違和感が拭えないこともあるわけです。スマホケース、あるいはテーブルウエアなどは、厳しい表現になりますが「別に、この素材や技法である意味はないのでは」と感じさせる商品にしばしば出合います。

 

大事なのは、「この素材、この技法であることの説得力と必然性」であると私は強く感じます。それが備わっている商品にこそ人は振り向くでしょうし、その分野の未来にもつながるのではないでしょうか。

 

さて、ここからが今回の話です。写真をご覧ください。小さなフックが上下に連なっている形状の商品で、その名を「繋げる小物ハンガー」と言います。販売価格は1つのフックが792円(税込み)からで、購入したユーザーは自在につなげることができます。フックの連結は計7つまで可能だそうです。

 

クローゼットや玄関先などにこれをぶら下げて、そこにネクタイや帽子、あるいはマフラーやカバンなどをかけておくのに使えるという商品です。カラーバリエーションは17にも上っていて、渋い金属色からまばゆい赤色まで、好きに選べます。

 

 

 

周囲の町工場は10分の1に

 

この繋げる小物ハンガーを開発・販売するのは、東京都墨田区の別府鋳工という中小企業です。同社の創業は戦後間もない1948年で、従業員数は現在13名。

 

会社名から想像が付くかと思いますが、別府鋳工は鋳物を製造する町工場です。創業初期は米国向けの馬具金具が主力であり、その後は国内市場に向けてカバン用の部品(バックルなど)を生産してきました。

 

ただ、やはり時を経るにつれ、経営環境に厳しさが増していきます。同社のある墨田区近辺にはかつて、鋳物工場が100社はあったそうですが、現在では10社にまで減少しています。

 

同社社長である別府功雄氏は「若い人がいる事業者は踏ん張って残っていますね。それぞれに創意工夫を凝らしている」と話します。

 

別府鋳工には、功雄氏のご子息である別府英彦氏が在籍しています。この英彦氏が2019年に社内で立ち上げたブランドが「鋳向屋」です。

 

カバン用の金具はもっぱら卸売業者に納入する形態なので、自らが販路を築きにくい。だったら「新たな商品を生み出し、消費者と直接の関係を結ぼう」というのが目的でした。

 

そして2020年、繋げる小物ハンガーを発売。発想もデザインも英彦氏自身の手によるものと聞きました。もちろん鋳造による商品です。

 

でも、ここで尋ねたい。このハンガー、鋳物である意味はありますか。そこに必然性はありますか。確かに、よそではまず見られないデザインと機能であるとは感じますが、「プラスチックでも構わないのでは?」とあえて聞きたくなります。

 

 

 

 

鋳物だからこその商品を

 

英彦氏は即答しました。

 

「この形のハンガーを作ろうと思ったら、鋳造が最も理にかなった製造法だと断言できます」

 

どういうことか。まず、この商品とあえて似たような存在を挙げるとすれば、100円ショップなどで人気のS字ハンガーがあるかと思います。それに比べると、こちらの商品は安定性(これは安全性にも大きく関わる)において明らかに分がありますね。

 

「こうした連結タイプのハンガーをプラスチックで作ろうとすると、つなぎ目部分の強度を保つのがどうしても難しいのです」(英彦氏)

 

さらに言えば、見た目の質感でしょう。プラスチック製のS字ハンガーに比べればはるかに値が張る商品ではありますが、質感は間違いなく高いですから、室内の雰囲気づくりにも良い。

 

英彦氏が「鋳造であることに必然性はあります」と言い切るところに、私は大きな意義を感じました。自社の持つ技術を何かに無理やり当てはめるのではなくて、自然な形でちゃんと生かす。そうであるからこそ消費者への説得力が備わり、結果として商品の魅力が伝わりやすくなります。

 

 

既存の事業にも好影響が

 

別府鋳工の全体の売り上げのうち鋳向屋ブランド商品の占める割合は、現時点ではわずか1%程度だそうです。とはいえ、この「1%」が同社の未来を形づくっていく可能性は十分にあります。

 

以前にこの連載でつづったケースでもお伝えしてきましたが、「たとえすぐに売り上げで成果を出せなくても、種をまき、まずは芽吹かせることが事業者の将来にとって重要である」という話です。

 

同社では鋳向屋ブランドの立ち上げによって、売り上げの面以外で好影響がもたらされ始めたそうです。

 

「新ブランドを生み出し、サイトで販売することによって、それを目にした企業からの問い合わせがあり、実際に数社と取り引きが始まっています」(英彦氏)。BtoC部門に力を注いだ結果、主力であるBtoBにも良い波及効果があったということですね。

 

最後に、身も蓋もない尋ね方で恐縮ですけれど、鋳物に未来があるか聞いてみました。

 

英彦氏は言います。「確かに、若い世代は鋳物と言われてもピンとこないかもしれません。家の中にはプラスチック製品があふれているでしょうし。でも、鋳物をもう一度広めたいという思いが強いんです」と。

 

その安全性や質感、そして耐久性を見直してもらえれば、という話です。

 

そのためにはやはり、古くからある鋳造技術を生かし切ってこその商品を世に出すことが必須となります。単にプラスチック製のものを鋳物に置き換えるのではなくて、「鋳物でなくては」としっかり納得させられるような商品開発の姿勢が求められます。

 

その意味において、繋げる小物ハンガーは、鋳物である必然性、そして可能性をも示す快作であると、私には感じられました。

 

 

 


Profile
北村 森Kitamura Mori
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。
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