Vol.65 顧客が1人でもいるならば
北村 森
2021年2月号
商品開発と営業トーク
まったくの想定外だったニーズをつかみ、そこから新商品の開発を物にするためのプロセスは見事だったというほかないと思います。ただ、このフットマークという会社、過去にも同じような事例を経験しているのです。
そもそも同社は1960年代まで、赤ちゃんのためのおむつカバーが主力商品であり、介護の領域とは無関係でした。そこからどういう経緯で商品分野を広げたのか。
まず、1970年代初めのこと。それまでの布おむつから紙おむつへと、市場が大きく変わろうとする中、同社は危機に直面しました。その局面で同社の代表が決断したのは、「おむつカバーで培った縫製技術を生かして、小学生のための水泳帽を作ろう」というもの。当時、全国の小学校にプールが一気に設置され始めたのを受けての判断でした。
しかし、ここがポイントなのですが、1970年当時、プールに入る時に水泳帽をかぶる習慣など全くなかったのだそうです。つまり、そこに市場はなかったわけです。では、同社はどうしたのでしょうか。
「全国のめぼしい特急停車駅に降り立っては、公衆電話ボックスの電話帳をめくって、小学校に電話をしまくり、アポイントを取りました」。そして、各校を説得するセリフはこうでした。「児童が水泳帽をかぶれば、先生が点呼を明らかに取りやすくなり、また、安全性が高まります」。なるほど……。
現在でも、フットマークは水泳帽のトップシェアを守っています。