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【コラム】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム2015.12.22

vol.4 ご当地「超小型EV」の時代へ
北村 森

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Vol.4
ご当地「超小型EV」の時代へ

2016年1月号

2015年の秋に開催された東京モーターショー。私がとりわけどのあたりに注目していたかといえば、会場内の「西3・4」というエリアにあるブース群でした。
この一帯には、国内外の大手自動車メーカーによる派手なブースはありません。では、何が出展されているか。今回のショーに限らず毎回のことなのですが、ブースそれぞれは小さなものながら、気鋭の地方企業などが独自の色を打ち出した展示が目立つのです。
EV(電気自動車)が、徐々にではありますが一般化するにつれ、自動車産業にじわじわと変化が訪れています。
従来のような内燃機関(エンジン)を搭載するクルマの場合、エンジンを新たに開発しようとすれば、そのコストは膨大なものになります。コストにも増して、エンジンの開発ノウハウがなければ、参入はまず不可能です(例外として、既存の大手メーカーの市販車をカスタマイズする形態はあり得ますが)。
しかし、EVであれば、話は別です。EVの動力源はモーターです。これならバッテリーとモーターを調達すればよいわけで、既存のエンジン車と比べると、はるかに新規参入へのハードルは下がります。車両本体を成す部品構成も、EVであれば相当にシンプルです。
つまり、これまで大手企業だけのものであったクルマの開発に、新規の中堅・中小企業が参入できる好機が訪れたということです。


キュートな一台を

前置きはここまでにしておきましょう。具体的な話に入ります。
今回の東京モーターショーで、私は2台の超小型モビリティーに目を奪われました。そのどちらも2人乗りのEVです。そして、2013年に催された前回のモーターショーに続く出展であることも共通しています。前回展示されていたモデルは、いずれも試作の域を出ませんでしたが、今回はそれらをさらに進化させ、発売寸前にこぎ着けています。2年間、粘り腰でよく奮闘したなあ、と思わず感慨に浸ってしまいました。
1台目。岐阜県関市のベンチャー企業であるSTYLE-Dが出展した『ピアーナ』です。
左の写真を見てください。1950年代に欧州市場を席巻したミニカー『イセッタ』のように、ボディー前部から乗降するスタイル。かつてのイセッタと違うのは、ドアが上に跳ね上がるところです。
また、超小型モビリティーでありながら、普通のクルマのように、横に2人並んで座れます。従来のこの手のモデルは、ボブスレーのそりのような前後に2人並ぶスタイルが定石でした。車体の幅を細く、よりコンパクトにするためです。ただ、前後に2人だと窮屈ですし、会話もしにくい。横に並ぶ配列は大きな意味を持ちます。
運転席の前方にはスマートフォンを取り付けられるスペースがあります。アプリを使ったナビ機能などとの連携を前提とした造りですね。前回のモーターショーで出展したモデルでは、ステアリングホイール(ハンドル)にタブレット端末がくっついていましたが、市販寸前のモデルでは、より手軽で普及度も高いスマホに変わっているということです。
また、ちょっと面白いのは、水で発電できるマグネシウム発電池を搭載可能としているところ。これはぜひ試乗車に乗る機会をつくりたいと思いました。
このピアーナ、2016年には欧州や中国で販売開始に踏み切る計画といいます。気になる車両本体価格を同社に尋ねたら「各国の補助金を使うと、日本円にして120万円程度に収まる」とのことでした。これだけの意欲作ですから、消費者の中には海外から逆輸入しようと考える人もいるかもしれませんね。
ピアーナを開発した中心人物は、トヨタ自動車のデザイン部門を経て独立した山下泰弘氏です。8年ほど前にベンチャー企業を立ち上げて、超小型モビリティーをここまで仕上げてきました。
市販モデルの生産に当たっては、恐らく、地場の企業との協業が模索されているはずです。まさに「ご当地EV」といえそうな取り組みであり、国内での販売も待たれるところです。


ガンダムのようなクルマ

さて、2台目です。新潟県柏崎市に本社を置くエクスマキナが出展した『エクスマキナ』。ピアーナ同様、こちらも横に並んで2人座れるEVです。
そそり立ったリアウイング1つ、随分と派手ないでたちですが、このモデル、大河原邦男氏の手によるデザインです。「機動戦士ガンダム」のメカニックデザイナーとして、その名を轟(とどろ)かせている存在であり、ディテールにも大河原氏ならではの作風が生かされている印象です。
このモデルがもう1つ面白いのは、どう売っていくかの戦略に見るべきものがある点です。
車両を単に売るのではなく、町おこしに役立つパッケージにして販売するという方針と聞きました。
まず、この超小型モビリティーを10台程度。それに加えて、モビリティーを貸し出す拠点として使うためのカフェ設備も一緒に用意する、という形だそうです。
このパッケージを各地の事業者が購入して、カフェの店内で地域の産品を販売したり、街の情報を提供したりする。そして、周辺を巡りたい観光客にモビリティーを貸し出すという話です。
これはうまく考えたなと思います。地方の企業が超小型モビリティーを消費者に1台ずつ販売しようと狙っても、販路開拓やメンテナンス拠点の確保などで苦戦する恐れは大きいでしょう。その点、一般の消費者相手ではなく、各地の事業者にまとめ売りするスタイルをとれば、効率的な営業活動が可能になりますし、メンテナンスに関しても手間は簡略化できます。そうした意味で、エクスマキナのビジネスモデルは注目に値します。
この超小型モビリティーの納入価格は、1台300万~350万円の予定といいます。量産化を目指したところで、たちどころに数十万台規模でさばけるような車両ではありませんから、致し方ないところかもしれませんが、それにしても結構な値段です。
そこで、各事業者のコスト回収を助ける意味で、モビリティーのリア部分にモニターを設けたそうです。そのモニターに広告や地元の情報などを流すことで、事業者は一定の収入を得られるという算段です。
このビジネスモデルが成功するかどうかは、確かに未知数です。でも、これまで全国各地で進められていた超小型モビリティー事業や実証実験よりも一歩踏み込んでいる点を、私は評価します。
街にどう根付かせるか、人をどのように呼び込むか、収支の折り合いをどうつけるかについて、エクスマキナはより具体的なところを提案しているわけです。
エクスマキナでも、地域との連携が1つのポイントとなっているのは、特筆すべき点でしょう。
新潟県の産業振興課が、3年ほど前の企画段階からプロジェクトをサポートしています。また、地元企業とのコラボレーションにも力を注いでいるようです。スポンサー企業が付いているのはもちろん、車両の生産では地場の中小企業と手を握っていく姿勢であり、そのような企業連携に関しても、県が協力態勢を敷いているのです。
2016年には、第1号モデルとして、和歌山県内で最初の展開を予定していると聞きました。アニメから飛び出したようなモビリティーが走る街――楽しいと感じさせます。


筆者プロフィール

北村 森 (きたむら もり)
1966 年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1992 年、日経ホーム出版社に入社。記者時代よりホテルや家電、クルマなどの商品チェックを一貫して手掛ける。2005 年『日経トレンディ』編集長就任。2008 年に独立。テレビ・ラジオ番組出演や原稿執筆に携わる。サイバー大学客員教授(IT マーケティング論)。著書『途中下車』(河出書房新社)は2014 年にNHK 総合テレビでドラマ化された。最新刊に『仕事ができる人は店での「所作」も美しい 一流とつき合うための41 のヒント』(朝日新聞出版)。

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