Vol.57 誰が町を元気にするのか
2020年6月号
2020年3月21日、富山市のJR富山駅を挟んで南北それぞれ別に運行していた二つの路面電車が、線路の延伸により一つにつながった。直通運転の開始で、市街中心部から日本海に面する岩瀬までの移動が容易に。岩瀬は、古くは北前船の寄港地として栄え、今も廻船問屋だった建築物が残るなど、美しい町並みを擁している。
地元が対策を講じる
本連載の2016年7月号で「『町を元気にする』とは」というタイトルで、北海道・木古内町の話をつづりました。ちょっとだけ、おさらいをさせてください。
道南(北海道の南部)に位置する木古内は、長らく人口減少問題に直面してきた過疎の町です。
1980年代、青函トンネルが開通して、本州と北海道が鉄路で結ばれた時、木古内の住民は大喜びでした。念願だった特急列車が木古内駅に停車することになったからです。これで過疎化の問題は解消すると、地元は沸き立った。
ところが、事態は何も変わらなかったのです。「特急列車が停まるからもう大丈夫」と安心していただけで、町が賑わいを取り戻すには至らなかったという話。
2016年3月、今度は北海道新幹線が開業します。本州から新幹線に乗って北海道に上陸すると最初にある駅が木古内駅。さあどうするか。町の人々には、青函トンネル開通時の深い反省がありました。「ただ待っているだけではダメだ」「動かなければ町は賑やかにならない」と思った。
そして木古内駅の真ん前に「道の駅 みそぎの郷 きこない」を町挙げて開業させます。単に開業しただけではない。観光客も地元客も、そして新幹線で来た人も自動車で来た人も楽しめる趣向を凝らしに凝らした。
すると、この道の駅の来客数は、オープン3カ月で10万人を超え、最初の1年足らずで55万人を数えました。観光地ならいざ知らず、人口が4000人台の静かな過疎の町でこの成果です。大事な教訓を得られる話だと感じられました。
交通インフラの進展があったとしても、地元がそれを生かす策を講じなければ、思い通りに事は運ばない。口を開けて待っているだけではいけないということでもあり、逆に言えばこの局面で何が必要かを精査して動けば、交通インフラの整備が効果をもたらすのだと、木古内の事例は示していると思います。