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旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
メソッド2020.01.31

Vol.53 「協業」に不可欠な姿勢:琉Q|シマノネ

 

琉Qのアセローラジャムとシマノネの小箱
2020 年2、3月にANA国内線全便で機内販売される「琉Qのアセローラジャムと、シマノネの小箱」のセット。価格は1000円(税込み)。琉Qは、沖縄県セルプセンターとGUILD OKINAWA の協業による産品プロジェクト。シマノネは、ゆいまーる沖縄による沖縄の工芸品プロデュース事業の一環から生まれている
【琉Q】http://ruq.jp/
【シマノネ】http://shimanone.utaki.co.jp/

 

 

アセローラは熱を加えると深い赤色になる。ジャムの味は酸っぱくない

 

 

相手に何を与えられるか

 

今回は、私自身が関わっている案件をテーマにしてつづることを、どうかお許しください。

 

何の話か。商品の開発・販売プロジェクトにおける協業(コラボレーション)についてです。つまり、複数の事業者が集まって一つのことを成すという話。

 

本題に入る前に、以前別の機会で耳にしたことをお伝えしましょう。

 

今からもう10年以上前なのですが、食品や飲料分野を中心に「コラボレーション商品」が一気に増えた時期がありました。例えば、アサヒビールがフランスのフォションと組んで、紅茶風味のリキュールを発売した、というふうな感じです。

 

その当時、ある大手食品メーカーの担当者が語った「コラボレーションする場合、絶対に踏まえておかなければならないことがある」という言葉を、今でもよく覚えています。

 

「コラボする相手から何かを得たいと考えていてはダメなんです。相手に何を与えられるかをまず考えないと」(大手食品メーカーの担当者)

 

これ、本当に大事な姿勢だなあと感じたことを記憶しています。コラボによって協業先の事業者から自分が何らかの恩恵にあずかりたいとばかり考えていると、そのプロジェクトは瓦解しかねない。互いが自分のメリット獲得を優先すれば、間違いなくそうなるでしょう。

 

相手に対して何をもたらせるかという姿勢で臨めば、回りまわって、自分のところに利益が返ってくるわけです。

 

余談ですが、私は友人や後輩の結婚披露宴で祝辞を贈る場面で、似たような話をしています。「結婚生活では、相手から何かしてもらおうというより、相手のしたいことをしてもらうという意識で過ごしましょう」といった内容です。

 

そう考えると、協業で大切な基本姿勢とは、(結婚に限らず)人間関係における基本姿勢と同じかもしれませんね。「譲れない一線」を、最初に伝えておくべきという点もそう。

 

 

どんな柄の外箱かは買ってからのお楽しみ

 

 

 

 

 

 

一般的なイメージと違い、実は晴れの日よりも曇りや雨の日が多い沖縄

 

 

地域の実力派へアプローチ

 

さあ、本題に入りましょう。

 

ANA・全日空商事との連携で、「北村森のふか堀り」という国内線機内販売プロジェクトに着手しています。国内線全ての便に搭載する機内販売品を開発して、機内へ載せる冊子にコラムを執筆するというのが、その任務です。

 

原則、2カ月ごとに一つの商品を開発します。連携するのは、日本全国で頑張っている実力派の事業者。かつ、それぞれの地域に根を張っていて、各地の隠れた魅力を掘り起こしている事業者であるのが条件です。

 

私がその候補を挙げて、全日空商事の担当者と検討を進めます。

 

そして事業者の候補が絞れたら、その事業者に私からアプローチをかけます。相手にしてみれば、「なぜ突然?」と驚くケースもありますから、丁寧に交渉をしていくのが大切。

 

そして、機内販売にかける商品の具体像を詰めていきます。すでに販売されている商品そのものは避け、ANA限定のオリジナル商品を一緒に考えて生産するか、もしくはANA限定先行販売となる商品を選定するようにしています。

 

プロジェクト開始からここまで、私はすでに二つの商品を送り出しました。まず、素材の良さを生かしたドライフルーツ、次に常温保存の利く水産加工品。

 

で、三つ目が、今回皆さんにお伝えしたい「琉Q(ルキュー)」と「シマノネ」を名前に採用した商品です。2020年2、3月の2カ月間、ANAの機内で販売します。

 

 

 

 

 

福祉と広告の協業から

 

全日空商事との会議を重ねた上で、私がまず初めに声を掛けたのは「琉Q」でした。

 

琉Qは「沖縄の生活に溶け込み、育まれてきたモノやコト」を紹介していく商品プロジェクト。そのラインアップには、塩パインバターや、練り島唐辛子など、魅力的なものがそろっています。

 

面白いのは、パッケージのデザインコンセプトです。「青い海、白い砂、赤いハイビスカス」をいかにも想起させるような、派手な色はまったく施されていないのです。穏やかなベージュ基調の、アースカラーに徹している。これはなぜかと聞くと「もともと沖縄は『曇りの島』なんです。晴天の日は実は少ない」。なるほど、本当の沖縄を伝えるという考えを貫いているのですね。

 

また、私が琉Qを推したのには、もう一つの理由がありました。この琉Q自体が、すでに地域のコラボレーションを成した団体なのです。販売元は県の外郭団体である沖縄県セルプセンター。障がい者の自立を支える組織で、県内の福祉施設(事業所)をまとめている存在です。そして、商品の企画やプロモーションに関しては、地元の広告・デザイン企業であるGUILD OKINAWA(ギルドオキナワ)が担っています。

 

つまり、福祉と広告の協業なのですね。この琉Qのラベル付けや梱包は、福祉施設に通う障がい者が行っています。「強い商品であれば、より売れるから、障がい者に支払う工賃を少しでも高められる」。そういった明快な狙いがあると聞きます。

 

私が琉Q担当者のもとを訪れたら、すぐさま商品候補を提示してくれました。「アセローラジャムの新製品でいきませんか」と。

 

試食してみると、これがおいしかった。シークァーサーの果汁が隠し味のように効いている。

 

 

 

 

 

 

5社が手を携えた商品

 

さらにここでANAが、搭乗客への訴求力をより高めましょう、と提案してきました。アセローラのジャムに加え、沖縄の魅力を伝えるプラスアルファを組み合わせようという話です。

 

地元の職人が作る陶器のスプーン? いや、値段が釣り合わない。では、琉Qの他の商品とのセット?いやいや、それも焦点がぼやける。ならばどうするか。

 

「ゆいまーる沖縄の『シマノネ』の小箱に入れませんか」との発想が、琉Qの担当者からもたらされました。ゆいまーる沖縄は、地元の伝統工芸を生かした商品を取り扱おうと立ち上げられた企業で、これまで数々のプロデュース商品を世に出しています。シマノネはその一つで、沖縄らしい模様を和紙に刷り込んだ、可憐な小箱のシリーズです。

 

つまり、商品の外箱そのものも商品にしてしまおうという話。

 

うん、これは面白い。

 

ただ、このシマノネとの会議で壁に当たってしまいました。小箱が手作業による生産のため、一つの柄の箱で統一することは物理的に無理だといいます。こちらが求める数量を達成するには、10種類もの柄を織り交ぜての提供となってしまう。

 

この条件だと、機内販売で取り扱うにはちょっと厳しくなります。例えば、搭乗客が「別の柄の小箱にしてほしい」と頼んできた場合、販売に当たる客室乗務員が混乱しますからね。客室乗務員の主要業務は安全確保です。機内販売にだけ時間をかけるわけにはいきません。

 

ではどうするのか。

 

ここで全日空商事の担当者が動きます。まず、ジャムを収めたシマノネの小箱を、さらに共通の紙箱に入れました(つまり、中身の小箱の柄は買って開けるまで分からない)。そして、シマノネの小箱の柄は選べない旨を販売冊子に明記したのです。そうすることで、ANAの関係者を説得しました。

 

最後は価格の最終調整です。販売価格1000円(税込み)のラインは相当に厳しいものでしたが、各事業者が少しずつ利益を削り(私もです)、最後には合意を得ることができました。

 

 

 

 

 

 

「琉Qとシマノネ」の協業は、こんな形で…

 

 

少しずつ譲って完成

 

話をまとめましょう。

 

要するに、本件は各社が少しずつ相手に譲ったからこそ完遂できた協業であったと思います。琉Qはギリギリまで納入価格を下げた。ゆいまーる沖縄もそうであると同時に、10種類に及ぶ小箱を特別体制で生産した。ANAや全日空商事は、沖縄の両事業者に寄り添いながら、販売実施に向けて粘り強く提案を続けた。私は交渉をまとめるため、ときに自費で沖縄に飛びました。

 

ともに「本当の沖縄を伝える」との信条で奮闘する琉Qとゆいまーる沖縄が協業を果たせたというのは、実に価値があると感じましたし、また、地元の福祉の世界に少しはお役に立てたのもうれしい。

 

後は……売れてほしいなあ。

 

 

沖縄セルプセンターの萱原景子氏(左)と、GUILD OKINAWAクリエーティブディレクターの仲本博之氏(右)

 

 

ゆいまーる沖縄の鈴木修司社長(左)と、同社で「シマノネ」を担当する玉田花絵氏(右)

 

 

 

Profile
北村 森Mori Kitamura
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。
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