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【コラム】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム2019.08.30

Vol.48 その違いは「切実」なもの

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2019年9月号

もともと多摩川クラフトはクラフト造形が主軸の事業。地形模型などを製作している

もともと多摩川クラフトはクラフト造形が主軸の事業。地形模型などを製作している

高コストでも理解された

具体的にはどうしたのか。本体は再生可能プラスチックにアルミを蒸着処理した素材。そして使用時も使用後も本体が自立するような形状にした。開くと幅広になって、ちゃんと立ちます。

「こうすれば、クルマのフロア面に置いておいても倒れづらいので、安心感が高まります」

さらにここが大事なのですが、本体上部にある、封をするためのジッパー(食品保存袋の「ジップロック」についているようなものです)を、既存の他社商品では一重のところ、念を入れて二重に備え付けました。

「そのことで、結果的に高価格になったわけですが、ここは譲れませんでした。漏れないことこそが勝負どころと踏まえたので」(水津氏)

その結果、第三者の試験機関に依頼して検証してもらったところ、195kgの荷重を掛けても中身は漏れなかったといいます。

つまり、「自立する」「ダブルジッパーを備えている」という、誰の目にも明らかな特性に加えて、客観的な数字でも、その意味を伝えることが可能になったわけです。

ある商品分野においては、マーケティングコスト(宣伝広告費など)をかけるよりも、製造コストをかける方が賢明という提案を、私は常々しています。製造コストを相応にかけることで、商品そのものが「ものを言う」、すなわち顧客の口コミを導く。その結果として、マーケティングに費用を投じるよりも、よほど大きな効果を得られるという話です。

この「QQTOILET」の事例は、まさにそれに当てはまりますね。

つくづく思うのは、なぜ、既存他社は、ここに気付かなかったのか。いや、気付いていても、密封力の違いなど、わずかな差にすぎない、とタカをくくっていたのかもしれません。門外漢の多摩川クラフトは、そこに果敢に斬り込んだ。だからこその成功だと、私は思います。一見わずかな差が、実は顧客にとっては切実なものかもしれない。そういうことです。


筆者プロフィール

北村 森 (きたむら もり)
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1992年、日経ホーム出版社に入社。記者時代よりホテルや家電、クルマなどの商品チェックを一貫して手掛ける。2005年『日経トレンディ』編集長就任。2008年に独立。テレビ・ラジオ番組出演や原稿執筆に携わる。サイバー大学IT総合学部教授(地域マーケティング論)。著書『途中下車』(河出書房新社)は2014年にNHK総合テレビでドラマ化された。そのほか『仕事ができる人は店での「所作」も美しい 一流とつき合うための41のヒント』(朝日新聞出版)など。

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