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【コラム】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム2019.08.30

Vol.48 その違いは「切実」なもの

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2019年9月号

多摩川クラフト 代表取締役社長 水津 慎吾氏

もともとは門外漢

今回ご紹介するのは携帯用トイレ、「QQTOILET(救急トイレ)」です。値段は一つ600円ほどですので、類似した他の商品よりも価格は高い。しかし、既存商品の隙間を突くような格好で、スマッシュヒットを飛ばしています。

関西地区の生協が仕入れ続けていて主婦層に人気があるほか、北海道の自衛隊の航空部隊からも注文が入っているそうです。

主婦と隊員。この二つの層に共通するのは、携帯用トイレの必要性を切実に感じている点かもしれません。主婦は家族の非常事態に思いを巡らせ、隊員は長時間、屋外で任務する大変さを体感している。

数多の携帯用トイレが存在する中で、そうした二つの顧客層の心をつかんだということは、このQQTOILETに相応の特徴があるという証しでしょう。それが何か、というのは……すみません、もう少し待ってくださいね。

QQTOILETを開発、製造、販売しているのは、東京の稲城市にある多摩川クラフトです。

失礼ながら一般には無名と言ってもいい企業であるだけでなく、主力事業と言いますか、そもそものなりわいは、立体地図などのクラフト造形です。立体地図とは、博物館などでよく見掛ける、54ページの写真にあるようなものですね。そうした門外漢の事業者でありながら、この携帯用トイレは、2018年だけでも、実に3万2000個を出荷しています。この数字、侮れないと思います。

同社の社長、水津慎吾氏は、クラフト造形を通して、ものづくりにまい進するだけでなく、いまから10年近く前、クラフト造形業界が不況で厳しい情勢に見舞われた折、別ジャンルのものづくりにも時間を惜しんで挑んでいたそう。その中から編み出されたのが、テントの中に金属製の円筒型バケツを設置する、簡易トイレだったと言います。これ、非常時やアウトドアで重宝する存在ですね。

ただし、それは複数人で使うような商品です。次は、よりパーソナルなものをと考えていた。

そこに2011年、東日本大震災が日本を襲います。かねてよりつながりのあった行政機関から、「何か便利な携帯用トイレはないでしょうか」との問い合わせを受けたそうです。

水津氏は考えました。ここでこそ、パーソナルな携帯用トイレをものにしたいという話です。

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