Vol.41 「高すぎる」という声は正しいか
2019年2月号
痛快なご当地商品に
肝心の味わいはどうなのか。現在のラインアップを見てみると、全国展開しているものが6種、九州限定のものが1種です。
どれも、箱の中にレトルトのだしと具材、薬味、そして餅が入っています。食べたくなったら、温めて器に移すだけで完成。商品によっては餅
まずは全国展開の商品から。
岩手の「くるみ雑煮」は、根菜と鶏肉、そしてくるみだれが付いています。素朴な味わい。
福島の「こづゆ雑煮」は、貝柱のだしです。サトイモなども顔をのぞかせる、具だくさんの雑煮です。
東京の「江戸雑煮」は、鶏肉やシイタケなどの澄まし椀。
京都の「白みそ雑煮」は、その名が示している通りほんのり甘い白みそ仕立て。だしは昆布と鰹。
鳥取は「あずき雑煮」です。こちらは意外と甘くない。小豆の粒感をしっかり残しています。
鹿児島の「焼きえび雑煮」は、エビのだしが面白い味わいです。うま味がじわじわと染みてくる。
そして福岡の「ブリ雑煮」(九州限定)は、あごだしにブリの切り身。かなり濃く、しっかりした味付け。
いや、この7種を食べ比べただけでも、全国各地でこんなにも雑煮の姿も食感も異なるのか、とうなってしまいますね。
また、7種の雑煮はどれも具材たっぷりなのが特徴。けっこう食べ応えがあるのはうれしいところです。
このご当地雑煮シリーズ、2017年度は4万個の販売を果たしたといいます。スタートからわずか数年で当初の4倍規模を取ったという話ですし、ドウシシャとの連携に着手した2018年度以降は、確実にこの数字を伸ばしてくるでしょうね。
引けない一線を守る
何が成功の要因となったのか。何人ものバイヤーからの「高すぎる」という指摘に押し切られなかったのが良かったのだと私は思います。過去に例のない商品の場合、高いも何も、比較する対象がないわけですから、東急ハンズのバイヤーが注目したように、「面白いかどうか」こそ商品が受け入れられるための最も重要なポイントに、本来はなるはずでしょう。粕谷氏が価格面で引かなかったのは極めて大事なところ。
ビジネスにおいて“引けない一線”は相手に譲るべきではない、という教訓もあらためて得られた。そんな取材となりました。
筆者プロフィール
北村 森 (きたむら もり)
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1992年、日経ホーム出版社に入社。記者時代よりホテルや家電、クルマなどの商品チェックを一貫して手掛ける。2005年『日経トレンディ』編集長就任。2008年に独立。テレビ・ラジオ番組出演や原稿執筆に携わる。サイバー大学IT総合学部教授(地域マーケティング論)。著書『途中下車』(河出書房新社)は2014年にNHK総合テレビでドラマ化された。そのほか『仕事ができる人は店での「所作」も美しい 一流とつき合うための41のヒント』(朝日新聞出版)など。