Vol.41 「高すぎる」という声は正しいか
2019年2月号
協業に踏み切る
転機は、東急ハンズのバイヤーとの出会いだったといいます。
「同社のバイヤーが、値段のことは言わず、『こんなに面白いことを考える人がいたんだ』『久しぶりに面白い商品を見た』と絶賛してくれたんです」(粕谷氏)
さらには、東急ハンズが東京・台場で「真夏の雑煮ナイト」というイベントまで催してくれ、そのチケットは完売となりました。
こうした経緯を聞くと、あらためて私は思います。商品の持ち味を理解してくれるバイヤーを探すこと、本末転倒になりかねない商品見直しは踏みとどまること、覚悟が試されるような場面で自分の信念を貫く判断をするのは、やっぱり重要なのだなと。
東急ハンズとの出会いは2015年の話でした。さらに本格的な協業により、このご当地雑煮シリーズは新局面を迎えます。
2018年、お雑煮やさんは家電からギフト商品までを幅広く取り扱っているドウシシャとの提携に踏み切ります。微細な味付けなどについては、これまでと変わらず引き続きお雑煮やさんの社長が担い、ドウシシャはそれに応えて生産拠点などを確保するとともに、販売促進を手掛けるという形態です。
つまり、この業界において大手どころであるドウシシャが、お雑煮やさんの取り組みを認めたということなのです。
ここでとても重要なのは、ドウシシャ側が、お雑煮やさんの“引けない一線”を尊重したという点にあると、私は感じています。ドウシシャの担当者にも話を聞きましたが、原料の吟味をはじめとする商品企画の骨格の部分は、あくまで、お雑煮やさんの意向を大事にしたという話なのです。
「全てのラインアップを、ひとつの工場に一括して委託することは決してできなかった」とドウシシャ側の担当者は言います。ベースとなるだしの味付けひとつとっても、生産工場を1社にまとめることは不可能だったらしい。それくらい、商品づくりには細心の注意を払ったわけですね。ドウシシャ側がよくそこまでの決断を成したとも思います。効率化よりも商品のありようを優先させたのです。