Vol.34 こんな時代なのだから
北村 森
2018年7月号
パパの輪を広げる
何が効いたのか。2つの理由が考えられます。
1つは、クラウドファンディングでの告知画像や説明文を通して、パパのツナギのコンセプトや機能性が十分に伝わったこと。これ、意外と見過ごされがちな要素です。いいものを作れば反響があると思い込まずに、伝える作業を大事にしている印象です。
その結果、杉山氏に言わせると「『パパに頑張ってほしい』と考えている人々からの共感を得られた」。単におもしろい企画、というだけではなく、「『このツナギが広がれば、もしかすると、これを契機にパパの立ち位置が変わるかも』と直感的に考えてくれる人たちが多かった」
それともう1つ。企画力にとどまらず、モノが良かったのでしょうね。パパのツナギの原価率は50%と聞きました。これ、この手の商品としては異例なほどに高いんです。普通なら30%程度でしょう。原価率を高めることに躊躇しなかったから、いいデニムを使えたし、機能もたくさん盛り込めたわけです。
ただし、そこには計算もあったはずで、やみくもに原価率を高めたのではないと私はみています。アパレル系の商品の価格設定は、得てして、発売からそうたたない時期にセール価格まで値段を落とすことを見越してなされます。安売りするのを最初から想定しているのですね。
しかし、このツナギは、そのコンセプトを考えれば、おそらく、やすやすとは陳腐化しない。つまり、発売早々に値下げをする必要はさほどないということです。だから、原価を相応にかけていい。
このあたりがまた、うまい考えだと私は思いましたね。
杉山氏は言います。
「現在、手掛けている案件は、まだプレリュード(前奏)です。大手企業はもちろんのこと、すでに存在するパパ集団も弊社に声を掛けてくれれば、コミュニティーは広がる」
地上戦(地道なイベント開催)と、空中戦(メディア戦略)の双方をなしていくのは、放送作家である杉山氏の得意なところだと感じます。
パパをテーマとする起業、クラウドファンディングの活用、そしてごくごく小さな会社と大手企業との協業……。どれもが、この時代だからこその話、とも言えるでしょうね。さらなる成功を祈ります。

株式会社ジョージが、老舗メーカーの職人と協業して企画、製作した「パパのツナギ」。クラウドファンディング大手のマクアケで支援を募ったところ、目標金額の30万円を超え、1週間で約100万円に。最終的には目標426%となる127万8000円の支援を集めた
筆者プロフィール
北村 森 (きたむら もり)
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1992年、日経ホーム出版社に入社。記者時代よりホテルや家電、クルマなどの商品チェックを一貫して手掛ける。2005年『日経トレンディ』編集長就任。2008年に独立。テレビ・ラジオ番組出演や原稿執筆に携わる。サイバー大学客員教授(ITマーケティング論)。著書『途中下車』(河出書房新社)は2014年にNHK 総合テレビでドラマ化された。最新刊に『仕事ができる人は店での「所作」も美しい 一流とつき合うための41のヒント』(朝日新聞出版)。