Vol.30 成功の反対は「何もしないこと」
工場見学から始まった
静岡県三島市に、山本食品という老舗のワサビ屋があります。
このワサビ屋社長の山本豊氏は、今から6年ほど前に、地元の経営者の会に参加したといいます。もともとそういった異業種交流の会には興味がなかった山本氏ですが、ふとしたきっかけで経営者の会に加わったところ、気持ちを揺さぶられる場面に出くわしました。
会に参加する町工場を見学したら、すごいものを作っていることに気付かされたそうです。性能のいいノズルだったり、精緻な加工を施した銘板だったり……。
「ところが、彼らの多くは下請け工場という位置付けなので、守秘義務が課せられていて、自社製作の商品に、これだけの技術を生かし切れないという側面もありました」と、山本氏は話します。
「だったら、こうした技術力を間接的に用いる形で、『僕の好きなものを作って』と頼むんだったらいいよね、と水を向けたら、『それはできる』となった」(山本氏)
そして、山本氏は町工場発の雑貨店を、彼らと一緒に立ち上げました。ボルトを半分にぶった切ったものを、カードホルダーに見立てて商品化。あるいは、ステンレスのカードミラーを製作。そんな具合でした。それらは思いの外売れたそうです。
でも、山本氏の心の中には、引っかかるものがありました。
「僕はワサビ屋です。どこかのタイミングでワサビ屋らしい商品を世に送り出したかった」
そこで思い付いたのが、ステンレスのワサビおろし板でした。
銘板の製作を得意とする町工場で、エッチング加工したステンレスの板を偶然見かけた瞬間に、可能性を感じたそうです。板を触ってみると、これはワサビおろし板になり得ると確信しました。