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【コラム】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
コラム2015.10.30

vol.2 葉っぱビジネスの町のブルワリー
北村 森

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Vol.2
葉っぱビジネスの町のブルワリー

2015年11月号

徳島県に、上勝という町があります。山々に抱かれた地域で、人口はわずか1700 人。全国各地にあるような過疎の町と言ってしまえばそれまでなのですが、他の町とはちょっと違った部分があります。
この上勝町、葉っぱビジネスで有名な地域なのです。日本料理に添える「つまもの」として、葉っぱを出荷するという事業を成功させた、いわば奇跡の町。
その年商は2億円とも言われています。その物語は書籍だけでなく映画にもなったほどですから、ご存じの方も少なくないでしょう。
2015 年5月、そんな上勝町に、クラフトビールのマイクロブルワリー(小規模な醸造所)がオープンしました。名前は「ライズ&ウィン」といいます。数年前に町役場から相談を受けた県内企業が、上勝の活性化のために一般社団法人を立ち上げて、この醸造所の運営に携わっているとのことです。

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「ライズ&ウィン」外観。吹き抜けを飾っているのは数々の古い窓枠だ

 



なぜクラフトビール?

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その話を聞いたとき、私は思いました。独自性あふれる施策を貫いてきた上勝町で、どうして今さらクラフトビールなのか。
昨今のブーム以前から、それこそ十何年も頑張っているブルワリーが各地にありますからね。
そこで上勝町へ出掛けてきました。質問は1つだけ。なぜ今オープンさせたのか――。

その答えを知って、なるほどと思いました。
ここ上勝町は、葉っぱビジネスと同時に、「ごみゼロ」を目指していることでも知られています。町にごみ収集車は存在せず、町民がごみステーションに廃棄物を持ち込み、分別作業を担う仕組みです。リサイクル率は80%だとか。
ごみが資源になれば、お金が入ります。それを使って若年層にも魅力ある町づくりにまい進するというのが、目指すところ。葉っぱビジネスは、町の高齢者が頑張れる素晴らしい施策として成果を挙げました。ただし、若い世代を取り込めるほどのビジネスモデルとまではいきません。葉っぱビジネスが全ての問題を解決するわけではなかったということです。だからこそ、町には次の一手が必要で、それがごみゼロ政策だったのです。ただし、その取り組みには困難も伴いました。町の住民にすれば、手間が掛かること、この上ないわけですからね。ごみの分別は、そう簡単な作業ではありません。そう考えると、町民を助けるためには、新たなサポートが求められてきます。

2013 年、「上勝百貨店」と名付けられた小売店が、町内に開業しました。運営するのは、先に説明した一般社団法人でした。
パスタもスパイスもシャンプーも量り売り、というのが、この店のスタイル。つまり、ごみゼロ実現への一助となるのが狙いでした。ここで商品を買えば、ごみの発生が抑えられるわけで、町民にとってはありがたい話になるはずです。
この上勝百貨店、県内外からの視察が引きも切りませんでした。山あいの町に生まれた“ 百貨店”、それも量り売りをすることで、ごみゼロにつなげようという方針は、確かに注目を浴びてしかるべきものでした。
ところが……肝心の売り上げが伸びなかったのです。掲げた旗は素晴らしかったのですが、「小さな町の、すてきな話」で終わってしまった。大半の消費者にとって、その理念は他人事だったわけです。
ならばどうする。「理念を掲げるだけではだめで、消費者が面白がってこそ、ごみゼロへの道は始まる」。同法人はそう考えて、上勝百貨店を閉じ、その土地にブルワリーを立ち上げようと考えた、といいます。

5月にオープンしたライズ&ウィンには、いくつかの特徴があります。
まず、このブルワリーでは、ビールの購入は量り売りを基本としたのでした。
1リットル入るガラス瓶込みで4800 円(税別)ですが、次回から、繰り返し利用が可能な、その瓶を持ち込めば、100 ミリリットル当たり150 円でビールが買えます。
つまり、多くの人にとって他人事であった部分を、自分のこととして捉えてもらうには、何よりも楽しさや面白さが不可欠という話ですね。上勝百貨店の理念を、クラフトビール工場に引き継ぎながらも、理念をさして意識することなく、ごく自然に消費者が利用できるスタイルを目指したということでしょう。

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1リットル入るガラス瓶。繰り返し利用が可能

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