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梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2016.08.31

vol.12 目からウロコの敬語の力

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2016年9月号

敬語の機能その4
親密? 赤の他人? を区別する働き

「機能その4」を知らなかったせいで、私はかつて、えらい目に遭いました。思い出したくもない、恐ろしい体験です。

終電間近の某ターミナル駅。千鳥足のサラリーマンをよそに、仕事帰りの私は急ぎ足で構内を進んでいました。すると、通路の隅の方で、若い女性が、いかにも「ヤクザ風の不良」みたいな男性にしつこく絡まれて困っているではありませんか。

「やめてよ〜! あっち行って〜!! やだ〜!!!」

気丈にもバッグを振り回し、男に抵抗を示している彼女。けんかの仕方も知らない軟弱な私ですが、狼藉(ろうぜき)者の餌食にされているいたいけな女性を、見て見ぬ振りはできません。身の程知らずにも彼女を助けようと、2人の間に割って入ったのです。

「女性が嫌がっているじゃないですか、やめなさいよ」

震えながら、ビビリまくりつつも諭す私! 一瞬、男がけげんな表情で私をにらみつけました。

「殴られる!」

覚悟を決めたその瞬間、事態は思わぬ方向に展開しました。

「何よ、あんた、偉そうに。そこ、どけっつーの、おら!! うせろー!!!」

乱暴な声を掛けてきたのは「コワイ男性」ではなく、女性の方でした。

彼女は「通りすがりのかわいそうな被害者」ではなく「男性の連れ」、しかも「争っていた」のではなく「愛する彼とじゃれ合っていた」わけですね。

男女の機微に疎い私は学びました。たとえ、女性が男性に絡まれているような光景を目の当たりにしても、「やめてよ〜」という非敬語の場合は「民事不介入」の態度で見守る方がいい。「やめてよ〜」というカジュアルな非敬語は、親密な者同士の愛の言葉でもあるからです。

これが「やめてください!」と敬語で発せられるケースなら「刑事事件」の可能性大と見て、周囲の皆さんの助けを借りながら救援体制に入る必要を考えろ、ということです。

「敬語の原則」を心得ていれば、「やめてよ〜」「あっち行って〜」「やだ〜」という非敬語表現には、親しみの感情や対人関係の近さ。「やめてください」「あっちへ行ってください」「嫌です」という敬語での訴えであれば、赤の他人からの暴力行為。「敬語」「非敬語」ではっきりと区別することができます。

親しいのか、親しくないのかを知る手掛かりとしての敬語の役割を見逃してはならなかったと、反省しきりでした。

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