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【メソッド】

梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2016.03.31

vol.7 若者世代にどう接していますか?
梶原しげる

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2016年4月号
 
社長から一転、高校生に転身 

 
こんな私の「異世代体験」など及びもつかない素晴らしい話を先日伺いました。地方の家電店をたった1人で立ち上げた75歳のSさん。周囲や取引先から「社長! 社長!」と言われ続けて約50年。一度も赤字を出さない堅実経営に徹し、地元で絶大な信頼を集めたその方は、高校進学の夢を叶えるべく店を畳み、受験勉強を始めました。

そして2015年4月、めでたく公立高校夜間部への入学が許されました。夜間部ですから、10代から30代まで幅広い若者が学んでいますが、中でも「75歳の高校生」は珍しい存在です。

60年前。家が貧しく、高校進学を断念せざるを得なかったSさんは、中学卒業と同時に上京して電気店で修業を積み、電気工事や販売、経営のノウハウを師匠から学んで、故郷に戻り起業しました。

仕事にも家族にも恵まれながら、一方で高校生活への憧れを諦めていなかったのです。そして夢は現実となりました。この4月、順調に高校2年生に進級です。

梶原「学校生活はどんな感じですか?」

S「校長先生をはじめ、先生方やクラスメート、クラブの先輩がとても良くしてくれます」

 校長先生は自分の子どもと同世代、クラスメートや先輩に至っては、孫より若い10代後半の若者たちです。

梶原「今時の若い人たちって、どうですか?」

S「私らの頃よりずっと真面目ですねえ、仕事も勉強も。夜間ですから学校に来る前に2つも仕事をやって、学校の後またもう1つ仕事をする、ものすごく頑張る同級生がいます」

梶原「そういう若者を想像していましたか?」

S「いえいえ! 普通、今時の若者はもっとチャラチャラしているって思いますでしょう(笑)。私が所属する軟式野球部の先輩たち(20歳前後の若者)は、地方大会を勝ち抜いて神宮での決勝ラウンドまで駒を進めましてねえ。『Sさんを連れて行きたいと思ったから頑張れた』なんて言ってくれるんです。私らの若い頃よりずっとやる気があるし、うちの先輩はすごいですよ」

梶原「先生方もSさんよりずっと年下ですよねえ?」

S「それはもちろん。でも優しくて、熱心で、威厳があって。夏休みの研究課題で星座観測に連れて行ってもらいました。私から見るとものすごく忙しいスケジュールのはずですが、私たち生徒にいろんな物語を丁寧に語ってくださる。先生っていうのはやはり物知りの人格者ですね。相談にも乗っていただいています」

社長時代は「酒はもちろんたばこも1日50本、移動は車」という、典型的な地方の社長的ライフスタイルだったSさんは、高校進学を機に、それらを全て断ち切ったのだそうです。

S「正月に仕事時代の仲間が『めでたい時だから少しぐらい、いいじゃないか』とお酒を勧めてくるんです。しかし、私は社長ではなく高校生ですから一切飲みません。そもそも予習復習で手一杯ですから無理。若く優秀な同級生に追い付かなきゃなりませんから。先生にも迷惑をお掛けしたくない」

毎日夕方5時に自転車通学。クラスメートと給食を共にし、夜9時まで英数国理社、体育、総合など、各教科の授業を受け、軟式野球部とボランティア部のクラブ活動に精を出す「元経営者・75歳」。

「卒業して、また若い人たちと一緒に、世の中のお役に立てる仕事ができる日が楽しみで仕方がありません」

そう言ってのける75歳のSさんは、経営者としてでも年長者としてでもなく、「フラットな立場」で「ありのままの若者」と接する稀有なチャンスを得ました。

もちろんSさんは特異な例ですが、「若い部下の扱いがよく分からない」「ジェネレーションギャップが厄介だ」と嘆く前に、Sさんの「役割や立場を超えた視点」の存在を知っておくだけでも、若者や部下の扱いに進展がありそうな気がします。
 
 


筆者プロフィール
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梶原 しげる (かじわら  しげる)

早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。

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