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【メソッド】

梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2015.12.24

vol.4 着席パーティー  見知らぬ人にどう振る舞う?
梶原しげる

着席初対面を積極的に活用する人

「着席初対面」を後ろ向きに捉える私とは逆に、「えりすぐりのメンバーと同席できるなんて、またとない出会いのチャンスだ!」と積極的に考えるおじさんがいました。「なかなか同席する機会のないVIPと、2時間顔を付き合わせ、じっくり話ができる絶好の出会いの場」を積極的に活用し、人脈を広めているMさん。私の知り合いで、某出版社の若き副社長です。

Mさんはかつてベストセラーを連発する敏腕編集者として鳴らし、役員になって以降もビジネス書籍を中心に、現場で活躍し続けています。彼が現在手掛ける作品の著者の何人かはこのような場で出会い、その後に手紙でアポを取り、口説き落とした人だと聞きました。

M「実は、私はいまだ、初対面の人と同席して上品に社交的に振る舞う技を会得していません。差し障りのないことをほどほどに話して、その場をそつなくやり過ごす能力って、逆にすごいなあって常々感心しています」

梶原「どんな業界でも、上座に居並ぶようなトップの皆さまは、そういう自然な時間の過ごし方に対応する能力をお持ちなんですよね」

M「そう、立派な能力です! 同席した初対面同士が、適当に言葉を交わし、悠然と飲食を楽しんで、互いの人となりを感じ取り合うなんて……」

梶原「ソワソワしたり、ざわついたり、ガツガツしたりせず、上品で穏やかな空気を醸し出す。経営トップは違うなあと思いますね」

M「なぜできるのか? ポイントは、役割意識だと思うんです」

梶原「役割意識?」

M「普通は、見知らぬ同士が着席させられて約2時間。何を話したらいいんだろうとか、気まずいなあとか、知り合いの席に行きたいなあとか、余計な邪念が浮かんで心が揺れますよね」

梶原「おっしゃる通り! ビールを注いだ方がいいのか? 何か気の利いた質問でもするべきか? いや余計なことを言ったら失礼になるのか? 邪念だらけで、私ならヘトヘトに疲れます」

M「ところが、そういう場面で平然とにこやかに過ごすのが自分の役割だと覚悟していれば、心乱れることはない。人間は役割を与えられれば冷静を保てる。役割意識が明確でないときに浮き足立つものです」

梶原「なるほど……」

M「私を支える役割意識は書籍につながる人材発掘。生々しいでしょう? 役員とはいえ、心は一編集者。この会食で、ベストセラーにつながる著者を探す役割が課せられている! そう割り切ると、恥ずかしいとか気まずいという気持ちはすっ飛んじゃうんです。スマートなトップの振る舞いができるようになるのは、まだまだ先ですなあ」

梶原「えー? 仕事につながると思うと余計に緊張しませんか? 仕事じゃないから適当に時間が過ぎればいいやっていう方が、気楽な気もしますが」

M「いやいや、仕事だからこそ、恥ずかしげもなくできること、ありませんか? 私なんか若い頃、気難しい著名作家に原稿を書いてもらうためには、裸踊りでもなんでもやりました。仕事でもなければ、あんな大胆なことはできません。編集者としての役割がつっかえ棒になったから耐えられたのです」

梶原「言われてみれば、私にも思い当たることがあります」

高所恐怖症の私ですが、急降下するヘリコプターから眼下に広がる都心の夜景を実況中継することがありました。気を失うほどの恐怖でしたが、「本番5秒前! 4、3、2……」と告げられた途端、恐怖は消え去り、思った以上にしっかり話せたものです。

私以上に大変なのはカメラマン。機体のドアを取り払い、足をロープに固定して体は外にはみ出させ、腹筋の力だけで体とカメラを支え、機内の私と外の夜景を交互に撮り続けるのです。

 ヘリポートに着くとカメラマンに声を掛けました。

梶原「高いところ、平気なんですか?」

カメラマン「とんでもない。普段は土手の上から川を見下ろすだけで目まいがするほど苦手です。カメラを持たなきゃ絶対無理」

カメラマンやアナウンサーという「役割意識」が大きな力を発揮する。初対面の人との着席での飲食にビビらない経営トップの「役割意識」は、マイクやカメラにすがらないだけ、われわれ以上に立派だと言えます。

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