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【メソッド】

梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2019.05.31

Vol.45 読めないと、教養を疑われる恐れのある漢字

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2019年6月号

あんな失敗、こんな失敗

〈例1〉
「先輩が勧めてくれた辞書、本文の前で、使い方を丁寧に説明している『ぼんれい』をしっかり読んだせいか、とてもスムーズに引けるんです。おかげで読み間違いもなくなりそうです!」

先輩「『ぼんれい』?」

「はい、平凡の凡と例文の例で、凡例ですが!」

先輩「その辞書で『ぼんれい』って引いてみろ」

「はい!えーと、あ、ありました!」

先輩「何と?」

「『はんれい』の、あやまり?? 『ぼんれい』じゃない!?」

〈例2〉
ナレーションの仕事で「部下の企画を見た上司は渋面を作った」の「渋面」を下読みで「しぶめん」と読んだ私に、強面(ごうめん、ではなく、こわもて)のディレクターがトークバック(スタジオとスタジオで交信するためのスイッチ)を強く押し「ジューメン、ジューメン!」と、ガラスの向こうから叫ぶのです。

アホな私は「10万ですか?」と尋ね返し、さらにディレクターを怒らせました。

「部下の企画を見た途端に10万円渡す上司が、いるか?」

この体験を経て、渋面の読みは「しぶめん」でも「じゅーまん」でもなく「じゅうめん」(しかめっつら)だという事実が私の脳裏にキッチリ刻まれました。

〈例3〉
「床に就く」の「正しい読み方」も知らなかった私……。

梶原「『ゆか』は分かるんですが、就職の『就』って字、何と読むんでしたっけ?」

ディレクター「就職は職に『就く』だから『つく』と読みます。それから床はこの場合、「ゆか」じゃなくて、『とこ』ですね。『とこにつく』でお願いします」

〈例4〉
梶原「敵味方に分かれた2人は、奇しくも同じ薩摩の出身であった」

荘厳なBGMに乗せて「良い感じのナレーションができた!」と自己満足に浸っている私にディレクターから注文が付きました。

年配ディレクター「梶さんよ、ひょっとして『奇しくも』の『奇』を『きしくも』と読まなかった?」

梶原「ええ、好奇心の奇ですよね?『き』と読みました。滑舌が悪かったなら、もっとハッキリ『きしくも』と言い直しましょうか?」

年配ディレクター「うーん、できれば『くしくも』、の『く』で、やってくれる?」

「奇しくも」の読みが「くしくも」で、意味は「不思議にも」だと学んだ日を、穏やかな先輩ディレクターの顔とともに忘れることはありません。

「自分の言い間違い」に気を付けるようになると、他人の言い間違いにも敏感になるようです。

〈例5〉
ある「立派な先生」の講演を拝聴したときのことでした。話が先生の尊敬する恩師に及ぶと、その名調子は最高潮に達しました。そしてこうおっしゃったのです。

先生「斯界の権威であられる我が師匠○○先生は……(やや講談調)」

畳み掛けるような語り口は実に見事でしたが、「斯界」を本来の「しかい」ではなく「きかい」とおっしゃったのが気になりました。

「きかいの権威」と言えば、将棋の世界を意味する、棋界(将棋)の権威?いや機械の権威?

文脈から判断すれば、そんなわけはありません。「斯界」、すなわち「同じ専門のものが集まって作る世界やその道」の意味でお使いだと分かりました。「斯界」の「斯」が「期」という漢字に「似ていなくもない」ことから「し」を「き」と誤解したのかもしれません。

〈例6〉
また、講演の中で先生は「思惑」を「おもわく」ではなく「しわく」とおっしゃっていました。

「なんと私のシワクが、いい意味で外れたんですよ、皆さん!」

一瞬、私の頭に「しわく?4枠?」「競馬??」と、思いもよらぬ光景が浮かんでしまいましたが、すぐに「思惑=期待・見込み」の「言い間違い」であることを理解できました。思惑の誤読「しわく」は「読み間違い漢字、あるある」でしばしば登場しますね。

先生は時に激しく、時にグッとトーンを落として語り掛けます。そこで思わずこんなことをおっしゃったのでしょう。

〈例7〉

先生 「会社という組織は何とも気骨の折れるところですよね、でも、皆さん!」

「気骨」には「きこつ」「きぼね」と2通りの発音があり、2つの言葉はそれぞれ異なる意味を持っています。先生は時に激しく、時にグッとトーンを落として語り掛けます。そこで思わずこんなことをおっしゃったのでしょう。

(1)「きこつ」と読めば「人に屈服しない心、気概」。例:気骨のある人。

(2)「きぼね」と読めば「気を使わなければならないので精神的に苦労する」。例:気骨が折れる。

先生の発言に耳を澄ませば、(2)の意味でお使いですから、読みは「きぼね」のはずです。しかし、実際には(1)の「きこつ」の音を口にされています。

先生のような老練な演説家でさえ漢字を言い間違える??というより、先生のような「偉い人」だからこそ、間違いを指摘してもらえるチャンスが減り、間違いを間違いと知らぬまま放置せざるを得なくなるのだ、とも言えます。

しばしば、若い世代の言い間違いを指摘して「若い人の日本語力の低下が嘆かわしい」と言う声が聞こえてきますが、そうとばかりは言えません。むしろ、若い世代は厳しい入試や就職試験、転職面接を突破するため、日本語能力を上げる学習をせざるを得ない環境にあります。

また彼らがよく見るバラエティー番組で人気の「クイズもの」では、難易度の高い国語問題を若者たちがやすやすとクリアする場面を見ます。「読み、書き、慣用句の意味の理解」などにおいて、彼らの力を侮ってはならないと感じます。

「最近の若いもんの日本語ときたら……」と嘆く気持ちも分かりますが、では年輩者はどうなのでしょうか?

クイズ番組では、例えば次に記したレベルの漢字を、若者たちはいとも簡単に答えていました。

(1)漸く、(2)強か、(3)強ち
ちなみに正解は以下の通りです。

(1)漸く→ようやく、(2)強か→したたか、(3)強ち→あながち

年輩者である私はあらためて無知な自分を大いに恥じたところです。あなたの職場でも、試してみませんか?


本連載は今号で最終回です。ご愛読いただき、ありがとうございました。


筆者プロフィール
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梶原 しげる (かじわら ?しげる)

早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。

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梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)

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