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【メソッド】

梶原しげるのビジネスに効く!会話のヒント

文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオ番組の司会として幅広く活躍してきた梶原氏が、ビジネスシーンに役立つ会話のヒントをお届けします。
メソッド2018.08.31

vol.36 気遣い言葉にご用心

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2018年9月号

愛だったり、優しさだったり、未来だったり、いったい何!?

話し相手に配慮する「もう一つの気遣い言葉」の現状を、畏れ多くも、日本語研究の第一人者「明鏡国語辞典第2版」「問題な日本語シリーズ」でもおなじみ、北原保雄先生と語り合ったことがあります。

先生のご本、小学館新書『しっくりこない日本語』の「対談コーナー」でのことでした。

先生「私は最近、『だったり』の変わった使われ方に、違和感を覚えているんですが、梶原さんなんかどうですか?」

先生は、本来の『だったり(であったり)』の使われ方として「晴れだったり、曇りだったりの空模様」など、「同様の動作や状態が繰り返しおこる意味を表現する時」に使われる「だったり」や「たまには散歩をしたり」など、他にも同類があるという含みで、動作、状態を表現する例をお挙げになりました。

梶原「釣りに行ったり、昼寝をしたり……ですね」

北原「ところが最近、こんなのが増えてきましたね。例えば『明日、ひまだったりします?』。この『たり』、相手に気を遣って遠回しに言う“気遣い表現”ですが、『ひま、ですか?』でもいいんじゃないですか?」

「なるほどですね」に類似した、話す相手への配慮を目的としながら、違和感もたっぷり発している「気遣い言葉」の「だったり」。

梶原「梶原さんとかって、休みの日だったりすると、映画見に行ったりとかする人だったりします?……って、先生、こんな感じだったりします?」

北原「それそれ!気遣いの発露だと言う人もいますが、言っている当人に実際、気遣いの意図があるのか、私は疑問ですね。言われた側が、瞬時に話の中身が分かる、そんな簡潔さを心掛けるのも大事な気遣いだと思いませんか?」

梶原「直接な物言いを避け、遠回しに伝える。そんな気遣いの仕方は確かにあると思いますが、それを越えて、分かりにくさに、イラッときますね」

北原「『北原先生はモナカを食べる人だったりします?』と聞かれても、どうにも落ち着きません。『先生モナカ食べますか?』でいいじゃないかと」

メッセージを遠回しに伝える。ボヤッとしたメッセージから真意を推し量る。これこそ「忖度社会の構造だ!」と大いに盛り上がった1年前、先生と私は、「あいまいな気遣い言葉」から、今日の政治的混迷を案じていたのでした。

気遣いも、度が過ぎると違和感を、そして怒りまで買ってしまうことになりそうです。


筆者プロフィール
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梶原 しげる (かじわら ?しげる)

早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。

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不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
821円(定価)

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