最終回 ドイツ流の働き方から学ぶ、「働き方改革」へのヒント
これまで紹介してきた方法以外にも、私が思う日本企業でも取り入れてほしい仕事術を紹介したい。
まず、個人で行うものとしては、メールを簡素化させること。日本人のメールは長い。通常、1通のメールを読んで答えを書くには5分ほどかかる。そのようなメールを12本処理するだけで、1時間かかってしまう。メールの送り先の数は、最小限にとどめ、どうしても必要だと思われる場合を除き、CCをやめてはどうか。
ドイツ人の管理職の間には、自分の部下や上司からのメール以外は読まずに放置している人が多い。繁忙時には重要度が低いメールを読まず、業務が暇になった時にまとめて読む人もいる。社内の問い合わせなどの場合はメールで返答せず、口頭で済む連絡は電話などで済ませている。メール以外でも、出張報告書や打ち合わせのメモなども、最も重要な内容だけを簡潔に記し、長さは1ページ以内にとどめたい。
2つ目はリストの活用である。退社する時には、次の日に達成するべき課題を、箇条書きにして自分の机の上に置いておく。すると、翌日出社してきた時に、何を仕上げればよいか一目瞭然で分かる。その日は、課題リストに記した事柄だけに集中する。課題をやり終えたら、線を引いて消す。仕事が進んでいることが「見える化」されるので、気持ちが良い。リストに記した事柄を処理できたら、さっさと退社する。明日に処理できることを、無理に今日やらないのが、ドイツ流の働き方だ。この国の伝統的な仕事術の基本である。
課題リストには、ただ課題を書き込むだけでなく優先順位を付けたい。まず顧客の問い合わせを最優先で処理する。理想的には、顧客の問い合わせには24時間以内で回答するようにしたい。
これに対し、社内の問い合わせメールの優先順位を低くし、対応は後回しにする。繁忙時には、意味がないと思われる社内の問い合わせは、無視する。社内からの問い合わせへの回答が遅いことを上司や同僚から批判されても、「顧客からの問い合わせを優先していた」と言えば、理解は得られるだろう。
3つ目は、特定の仕事を仕上げなくてはならない時には、電話がかかってきても出ない。最優先で仕上げるべき仕事がある時には、同僚と共有している自分のスケジュールへ、終日「ビジー(多忙)」だとマークする。そうすれば、他の人が打ち合わせなどの予定を入れられないだろう。
組織やチームで取り入れてほしいのは、会議時間を短くすることだ。ドイツ人は長いミーティングを嫌う。打ち合わせや会議は、どんなに長くても1時間以内で終える。事前に会議の議題を書き出して全員で共有し、てきぱきと議題を片付ける。会議時間を短くするだけでなく、回数も減らすべきである。社内の打ち合わせが多すぎると、特定の仕事に集中できない。全く社内の打ち合わせがない週を、月に1回ほど設けたい。
ドイツのビジネスパーソンは、口頭やメールを問わず、上司や同僚への報告・連絡・相談を最小限に済ませているが、日本で同じことを行おうとすると、「あいつは協調性や社会性がないやつだ」という批判を浴びるかもしれない。少なくとも自分が属する部や課の上司や同僚に説明して、理解を得る必要がある。
ドイツのビジネスパーソンの働き方を知ると、タイムマネジメント(時間管理)をいかに重視しているか、お分かりいただけるだろう。1日10時間で成果を生むにはあえて切り捨てる物も多くなる。使える時間が限られているのだから、顧客とのビジネスに直結する課題を最優先にして、社内の問い合わせなど優先順位が低い仕事は後回しにする割り切りが必要だ。それによって、重要な課題に集中するための時間的余裕ができる。
この割り切りができないと、10時間以内で仕事の成果を生むことは難しい。効率を最重視するドイツ人たちは、毎日冷徹にこの「切り捨て」を行いながら、最も重要な課題に時間とエネルギーを振り向けている。
もちろん、日本ではドイツと企業文化が異なるので、ドイツ人のように無情な切り捨てを完全に実行する必要はない。しかし残業時間を減らしながら成果を挙げるには、ドイツ人の働き方の秘訣の中から自分が気に入ったものを日本流に改良し、トライしてみる価値はあるだろう。

- 在独ジャーナリスト
- 熊谷 徹(くまがい とおる)
- 1959年東京生まれ。早稲田大学卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツに在住。『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』(SB新書)など著書多数。
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