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2017.09.29

「職域市場」の攻略:ヘルスケア コンサルティングチーム

事業環境

 

2020年以降、「縮小経済」「少子高齢化」の加速という大きな環境変化が避けられない状況にある一方で、業界のプレーヤー数は減らないであろう。すなわち供給過多の状況がより一層深刻化することは明らかである。

 

このような背景の中、企業が持続的成長を遂げるためには「生産性改善」が必須といえる。近年、「働き方改革」「休み方改革」「健康経営®※1」「ホワイト企業」といった言葉が取り上げられているが、良い人材を確保し、生産性の高い仕事をしていくことが「勝ち組」となる必須条件となる。

 

2015年度に企業が負担した法定外福利費(従業員1人1カ月当たり2万5462円、日本経団連調べ)の内訳を見ると、給食やショッピング、介護・育児支援などを含む「ライフサポート」(前年度比4.8%増の6139円)への支出の伸びが目を引く。2008年度(6504 円)以来7年ぶりに6000円台を回復したほか、法定外福利費全体に占める構成比は24.1%。1990年度(24.0%)以来25年ぶりの高水準だ。(【図表1】)

 

 

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フリンジ・ベネフィット(賃金・給料以外の経済的便益)を充実させることで、従業員の健康増進や採用力の強化、人材の離職防止を図りたいという企業のニーズが見て取れる。

以上のことから、「福利厚生」をマーケットとして捉えると拡大傾向にあり、採用・離職防止の観点から見ても拡大していくことは明らかといえる。つまり「福利厚生」は成長マーケットであるのだ。

 

勃興期のビジネストレンドとして注目されている「職域市場」

 

こうした動きに伴い、成長マーケットとして期待を集めているのが、オフィスで働く従業員に商品・サービスを提供する「B to E」(Business to Employee:企業対従業員間取引)、いわゆる“職域販売”(クローズドマーケット)である。

 

もっとも、職域販売そのものは以前から存在している。生命保険外交員による各種保険商品の販売や、オフィスで乳酸飲料を出張販売する「ヤクルトレディ」、会議や食堂などを間借りして化粧品や健康器具・宝飾品・衣料・寝具などを特別価格で販売する催事、あるいは百貨店の外商部門などが中元・歳暮カタログを顧客法人の職場で回覧してもらうといったものだ。

 

しかし最近になり、企業のオフィスを“店舗”、そこで働く従業員を“潜在顧客”と捉え、新たなビジネスモデルによって職域販売に乗り出す企業が増えている。

 

職域市場のニーズは、魅力ある職場・働きやすい職場をつくり、優秀な人材を確保することで生産性を改善したい、となる。一方で参入しようとする企業の意図は、既存市場はすでにレッド・オーシャン(競争が激しい既存市場)であり、収益性が低く持続的成長も見込み難いことから、ホワイトスペースを探している状況にある。従来の「モノ」売りではなく従業員・職場の課題にフォーカスしたホワイトスペースに対して、「コト」を提供することが求められている。ポイントは次のように「職域×課題」で市場を創造することである。

 

1.職域×ウエルネス

オフィスで働く従業員は運動不足・不健康になりがちである。オフィス家具大手のイトーキは、「平成27年度東京都スポーツ推進モデル企業」にも選定されたワークサイズ※2の取り組みが評価されている。いつもの何気ない行動を変えるさまざまな仕掛けによりオフィスを「健康になる空間」にする、社員の健康増進を促す取り組みを実施。「健康オフィス」という新しいジャンルの市場を生み出した。

 

2.職域×子育て

働く女性の離職理由で最も多いのが「育児・子育て」である。この課題に対して2017年4月から、ニチイ学館と日本生命保険は企業主導型保育所※3の全国展開を始めている。また一般社団法人全国子育てタクシー協会は、仕事などで子供の通園・通学・通塾の送迎ができない場合の代行をする「ひよこコース」というサービスを始めている。

 

「子育て環境の整備」はまだまだ途上にあり、国・地域から企業へと市場が拡大している。直接利用者にアプローチすることも重要であるが、同様に企業にアプローチし、福利厚生メニューの1つとして、一部負担するよう働き掛けることでB to CからB to B to Cへ、さらなる市場の拡大が進むといえる。

 

3.職域×時短

昼食を食べに行く、夜食を買いに行く手間を省く(時短)サービスとして、会議室や空きスペースで弁当を社内販売するデリバリー型の社員食堂(スターフェスティバル「シャショクル」)や、契約企業のオフィスに冷蔵庫・専用ボックスを設置し、健康的な総菜やご飯、スープを常備する“ぷち社食サービス”(おかん「オフィスおかん」)、同じく専用の冷蔵庫で良質な野菜サラダや有機ドリンクを提供するサービス(KOMPEITO/ コンペイトウ「OFFICE DE YASAI」)などの事例がある。先駆けとして知られるのが、江崎グリコが1999年から始めた、“富山の置き薬”方式で菓子を販売(置き菓子®※4)する「オフィスグリコ®※4」(2016年6月1日よりグリコチャネルクリエイトに移管)である。

 

仕事をしながら健康に、という新しい食事スタイル(=新しい市場)が創造されている。

 

職域市場特有の魅力

先述の通り、職域市場は「成長マーケット」であることは明らかであり、また次に挙げる通り職域市場ならではのメリットもある。持続的成長と生産性改善という矛盾した課題を背負う今の企業にとって、非常に魅力ある市場といえる。

 

1.ライバル不在のクローズドマーケット

職域市場は企業・従業員を顧客対象として商品・サービスを提供する市場である。対象が絞られていることから、一般的な不特定多数を対象とするオープンマーケットに対して「クローズドマーケット」といわれている。そこにはライバルとの競争による顧客の奪い合いは存在しない。

 

2.集客コスト不要

特定の企業とその従業員を対象とするため、集客に対する費用がかからない。参入企業から出向くことはあるが、集客活動自体が存在しないマーケットである。

 

3.固定費不要

不特定多数が対象ではないため、店舗を構えて販売する必要がない。つまり固定費がかからないマーケットといえる。

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