価値をつくり、届ける
奥村 格
奥村 格 Itaru Okumura
専門分野は営業戦略、マネジメント力強化、企業体質改善など多岐にわたる。企業ブランド力や粗利益率の向上、営業マネジメント力の強化を行いながら、幹部から若手社員までの育成を手掛けるなど、クライアント企業の業績改善に寄与している。戦略アグリ・イノベーション研究会チームリーダー。
(1)社会価値の高い魅力ある市場
「農家の所得を増やすため、生産から加工・流通まであらゆる面での構造改革を進める。肥料や飼料を1円でも安く仕入れ、農産物を1円でも高く買ってもらう」(2016年9月26日、第192回国会での安倍総理所信表明演説)
現在、安倍政権は成長戦略の1つに「攻めの農林水産業」を掲げており、6次産業の市場拡大(2014年度5.1兆円→ 2020年度10兆円)と輸出拡大を打ち出している。2016年11月には「農業競争力強化プログラム」が取りまとめられ、生産資材価格の引き下げや農産物の流通・加工の構造改革など、13項目の改革が盛り込まれた。
そして2017年に入り、新規就農者の増加や生産農業所得の伸長を背景に、資材流通分野の事業再編や新規参入、農家のための全農改革、「農地バンク」制度での農地大規模化、ジェトロ(日本貿易振興機構)を生かしたブランド化など、「農政新時代」を色濃く反映させた改革を促す施策を、社会的課題としてこれまで以上に強く打ち出している。
国内のアグリ市場においては、農家の後継者問題や販売農家数の減少、また耕作放棄地といった課題ばかりが強調されている。前述した農業改革は、そうした環境に対する国の危機感の表れであるが、裏を返せば構造転換を進めることでアグリ市場に「ホワイトスペース」(競合他社の存在しない空白領域)が誕生することを意味する。
事実、多くの企業が農業に関わろうとしている。その意味でも、アグリ市場はまさに「社会価値の高い魅力ある市場」であり、異業種企業が参入するチャンスといえる。
(2)農家・企業単体での問題解決力には限界
しかし、現実には、家業としての農家や小規模の事業として農業経営に取り組む場合、経営資源の制限から、農家単体での流通確保や新たな設備投資による高効率農業、手塩にかけて育成した農産物のブランディングは難易度が高い。
確かに、企業の農業分野参入事例は増加している。一般法人の農業参入数は、2016年6月現在で2222法人、改正農地法施行前に比べ年平均5倍ペースだ。(【図表1】)。しかし、個別に見ると、専門性や労務費の問題が大きく、事業として黒字化しているという話はごく限られている。つまり社会価値の高い魅力的な市場でありながらも、農家・企業単体でのアグリビジネスにおける問題解決は、なかなか難しいというのが現状である。
では、どのようにしてアグリ市場でビジネスモデルを描いていけばよいのか。次に、その着眼点を2つ示す。