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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2017.03.31

経営ブレーンとしての「士業」活用のすすめ:三浦 保夫

士業人口の現状

 

日本では、国家資格を有する職業を「士業」と呼ぶ。このうち、法律を扱う主な登録士業としては、弁護士、弁理士、税理士、司法書士、行政書士、公認会計士、社会保険労務士、土地家屋調査士(以下、8士業)などが挙げられる。いずれも高度な専門知識が求められ、資格取得試験の難易度は高い。

 

これらの士業人口は年々、増加傾向にある。日本弁護士連合会の「弁護士白書2016年版」によると、8士業を合わせた人口は2007年には22万4316人であったが、2016年には27万6987人と、23.5%増加している(【図表1】)。特に著しく増えているのが公認会計士(63.9%増)と弁護士(63.0%増)、弁理士(51.3%増)である。

 

【図表1】 主な士業人口の推移

 

 

弁護士の増加は、いわゆる「ゼロワン地域」(地方裁判所の支部管轄区域で弁護士が1 人またはゼロの地域)の解消に向けた司法制度改革により、司法試験合格者の増加が図られたため。また公認会計士は、2006年に金融庁が難易度を下げた新試験を導入したほか、企業や監査法人が採用を増やしていることも影響している。弁理士については、知財戦略を進める企業が従業員の弁理士資格取得を推奨していることが背景にあるとみられる。

 

ただ、その一方で「士業の供給過剰問題」が指摘されている。試験合格者や資格取得者の増加に対し、法律をはじめとする専門家を活用するニーズが追い付いていないためだ。

 

日本人は話し合いによる和解を重視する国民性から、欧米人に比べ権利意識が薄く、法律などを活用することに慣れていない。他方、社会の高度化・専門化が進展し、個人や法人のリーガルリスクは高まっている。そのためエキスパート人材を増やすことで「供給が需要を生む」効果が期待されたが、現状は「日常的に士業を使う」というレベルには至っていない。

 

 

最も頼りになる専門家は「税理士・公認会計士」

 

中小企業庁の「中小企業白書(2016年版)」によると、中小企業がリスクを伴う行動を取ろうとする際、相談する相手は「税理士・会計士」(60.2%)が最も多く、次いで「金融機関」(44.0%)、「従業員」(30.8%)、「コンサルタント」(25.8%)と続く(【図表2】)。税理士・会計士は、中小企業にとって最も身近な存在で、かつ気軽に相談できる相手であることがうかがえる。

 

【図表2】 中小企業がリスクテイク行動を取る上で相談・検討する相手(複数回答)

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出典 : 中小企業庁「中小企業白書(2016年版)」より作成

 

とはいえ、中小企業経営者は、税理士・会計士を十分に活用できているのだろうか。はっきり言って、「ノー」と答えざるを得ない。私は企業経営者から、「先生が多忙すぎて会えない」「財務・経理の機能だけ代行してくれればよい」などという声を聞く。逆に、税理士・会計士からは「顧問先から顧問料の値下げ圧力が強い」「節税対策の専門家だと思われている」といった話も聞く。

 

そもそも税理士・会計士は、記帳代行や月次試算表の作成、決算書作成といった単純な会計処理の代行業者(アウトソーサー)ではない。税法に基づいた節税対策のみならず、作成した決算書を分析し、経営アドバイスを行い、事業計画を作成し、実行支援を行うというコンサルティングの側面も持ち合わせている。

 

最近は、毎日の会計処理から、日々決算アドバイスを行う「クラウド会計」サービスが注目されている。これを導入することにより、企業はわずかなコストと引き換えに、自社の会計処理の手間が大幅に削減される。また税理士・会計士から記帳方法の指導を受けやすくなる上、日繰りで試算表を作成できるようになる。まさに、日々の経営を「見える化」するためのシステムである。

 

 

会計事務所活用の利点

 

近年の会計事務所を見ると、「企業支援」に力を入れているところが多い。これは全国的な傾向である。特に、トップマネジメントをサポートする高付加価値業務へビジネスモデル転換を果たした事務所は、売り上げを拡大させている。

 

今後、会計事務所業界は、先に紹介した事例のように、高付加価値サービスによって差別化を図る動きが進むだろう。これは、企業経営者にとってチャンスでもある。会計事務所は、職員1人当たり平均約40の法人顧問先を持ち、その経験からさまざまな業種・業態、規模の経営事例を有している。また各社の日々の数字の動きから年次の決算書まで、定量面の情報を把握している立場にある。しかも、そうした強みが高度に差別化されていくのだ。

 

メインバンクや取引先に相談しにくい経営課題について、財務のプロフェッショナルによるアイデアとノウハウを活用しない手はない。自社が現在契約している顧問税理士・会計士はどうだろうか。各種税務申告・記帳代行しか対応せず、たまに財務書類を持ってくるだけの事務所なら、有益なアドバイスをしてくれる事務所とコンタクトを取り、変更することをお勧めする。

 

取引先の多様化やコンプライアンス意識の向上、知的財産権を巡る企業間紛争、「働き方改革」に伴う従業員の労務対策など、企業経営にまつわるリスクは増大している。本稿では税理士・会計士を中心に述べてきたが、そうしたリスクを低減するために活用すべき士業は数多い。

 

経営者はぜひ、自社が直面する可能性のあるトラブルや、過去に経験した悩みを書き出し(【図表3】)、それぞれの項目で相談すべき相手を設定する「専門家リスト」を作成していただきたい。

 

中小企業経営者は往々にして、「この問題にはこの専門家が適任」という情報整理がなされておらず、複雑・高度な問題が発生したときに右往左往することが多い。また、経営課題やリスクが不明確なため、専門家へ相談するにも何を聞けばいいのか分からないというケースも目立つ。専門家リストの作成は士業の情報収集だけでなく、自社が遭遇するであろうトラブルを事前に想定し、かつ現在の経営課題を浮き彫りにする上でも有用である。

 

そして士業事務所を単なる「業務アウトソーサー」や、「困ったときの駆け込み寺」と考えるのではなく、「日常的にコンタクトを取り、相談するパートナー」として位置付けたい。

 

【図表3】 事業上のトラブル(例)
 

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出典 : 東京商工会議所「中小企業の法務対応に関する調査」調査票より作成

 

 

 

 

 

Profile
三浦 保夫Yasuo Miura
ネットワーク本部(現マネジメントパートナーズ本部)副本部長を経て2014年より現職。多くの人材を効果的に成長させ、組織づくりを実施する傍ら、全国の金融機関主催の研修会でグループ討議や実習を取り入れ、多くの経営者から「分かりやすい講義」と支持を得ている。また、企業・金融機関・会計事務所が抱える悩みを解決する組織づくりのエキスパートとして、相談が後を絶えない。「人の潜在能力を120%伸ばす」ことを信条に、多くの企業支援を行っている。
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