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【特集】

経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
メソッド2022.08.01

グループ経営を担う人材育成7つのポイント:HRコンサルティング部

グループ経営戦略の見直しから始める

 

近年、事業の多角化を推進する上で、M&Aによるホールディングカンパニー(持ち株会社)体制へ移行する企業が増えている。M&A情報データベースの構築・提供を手掛けるレコフデータによると、2021年のM&A件数は、2020年に比べて14.7%増の4280件と過去最多を記録した。今後も事業の多角化をマネジメントするグループ経営の重要性は高まっていくだろう。

 

だが、日本企業は本業や祖業の事業を重視する傾向があり、グループ経営を不得手とする企業が多い。また、グループ経営を推進する企業であっても、個々の会社がこれまでの事業領域で戦略を推進し、グループとしてのシナジーを発揮できていない状況の企業も少なくない。特に、規模の異なる企業で構成されるグループ企業(A社売上高100億円、B社売上高10億円、C社売上高5億円など)は、規模の大きな企業の事業戦略がグループの主軸となり、グループ経営が最適化されていない。

 

この事態を避けるためには、バリューチェーンを軸としたグループ全体のミッション・ビジョンの策定と、各社の中期経営計画への落とし込み、つまり、グループ経営戦略を見つめ直す必要がある。

 

そして、これらの担い手となるのがグループ各社の経営をかじ取りする経営人材である。本稿では、経営人材の育成方法について解説する。

 

 

経営人材を育てる仕組みづくりが重要

 

上場企業では、後継者育成計画を策定、開示する「サクセッションプラン」の取り組みが加速している。非上場企業において情報開示義務はないものの、サクセッションプランの趣旨を押さえつつ、自社オリジナルの人材育成プランへと昇華することが、経営人材育成の近道となる。

 

重要なのは、「グループ会社の持続的な成長を実現する経営人材を輩出し続ける仕組み」の構築である。

 

事例を1つ紹介したい。不動産の賃貸・売買・管理事業に加え、土地開発事業など複数の事業を手掛けるあるグループ会社は、グループ間のシナジーを生かしたグループ全体の企業価値の最大化と、各社の専門領域のさらなる成長を目的にホールディング体制へと移行した。また、社員から経営者・経営幹部人材を輩出するという目的もあった。

 

これまでは、オーナー一族が経営の先頭に立ち、企業成長を牽引してきた。しかし今後は、ホールディング体制への移行で、所有(オーナー一族)と経営(時代に応じて最も適性のある人材)を分け、次世代の経営を担う人材を社員から輩出することで社員のモチベーションアップを図っている。

 

そこで同社は、グループ各社の経営人材を継続的に育てるプログラムを導入している。

 

 

経営人材を育てる7つのポイント

 

経営人材を育てるプログラムを進めるに当たり、次の7つのポイントを押さえていただきたい。

 

❶経営ビジョンと中期経営計画の策定

 

経営人材育成のファーストステップは、経営ビジョンと中期経営計画の策定である。グループ・事業会社が5年・10年後、具体的にどうなっていることを目指すのか、その目標が明確に示されていなければ、経営人材に求める役割や能力を定義できない。

 

これは、経営者から見れば経営人材とのコミットメント(業績や組織開発など)が曖昧になることを意味している。社員から見れば、「何を努力すれば経営者になれるのか分からない」状態なのだ。

 

❷経営人材に求める要件定義

 

次に、「経営ビジョンと中期経営計画を実現するにはどのようなスキルが必要か」を社内で洗い出す。

 

一例ではあるが、グループ会社の理念や企業文化にマッチしていること、また、VUCAの時代においては「変化を恐れずに事業・経営戦略を構築する力」が必須スキルと言えるだろう。

 

❸対象ポジションの範囲と役割を定義

 

対象ポジションとはグループ会社の役職を示しており、グループ各社の規模や事情に応じて人数が異なる。各社の役職範囲と期待する役割を明確に定め、社員に開示することが重要だ。役割に合わせて報酬や権限を開示する場合もある。

 

特にオーナー経営の場合、「その会社でどのポジションまで目指すことができるのか」は、優秀な人材ほど関心の高い事項である。

 

❹育成機関の設置と運用体制の確立

 

❶~❸が定まれば、経営人材を継続的に輩出するための仕組みづくりに入る。「仕組み」と表現する以上、一度限りの取り組みに終わらせず、継続的に運用していくための「育成機関」の設置をお勧めしたい。育成機関とは、経営人材の選抜から育成、役員登用などの一連の流れをマネジメントする機関である。(【図表】)

 

 

【図表】育成機関の主な役割

育成機関の主な役割

出所:タナベ経営作成

 

 

❺経営人材候補者の選抜

 

経営人材候補者を選抜する基準は、役職(管理職以上など)、年齢、人事評価、アセスメント(客観的に評価・査定すること)の受検有無、自己申告、レポート提出など複数の項目を組み合わせて設計する。

 

選抜基準を複数の角度から設計する理由は、「潜在的に能力の高い人材の発掘」である。評価が高いだけでは経営人材になれないからだ。

 

❻経営人材育成計画の策定と実行

 

選抜された候補者の育成計画の設計は、研修、配置・配属、アセスメントが重要である。研修は経営人材に求める人物要件を満たすための研修プログラムの設計だ。配置・配属は、特にグループ会社が多い場合、複数社のマネジメント経験は必須と言える。新規事業や重要プロジェクトの責任者などの負荷の大きい役割を与えて、その成果をモニタリングすることも有効である。アセスメントは、適性診断などのツールを活用するほか、現役員陣からコーチングや面談を行うこともある。

 

❼選解任基準の設計

 

経営者育成を仕組みとして運用していく上で、役職ポジションに登用する際の選任基準と、選任して以降の再任・解任基準の設計も忘れないでいただきたい。「一度そのポジションに就けば安泰」という状態にせず、常に企業成長にコミットし続けられる人材を配置し続けるためにも、これらの基準は不可欠である。

 

以上が、グループ各社の経営人材を継続的に育てるプログラムのポイントである。これらの取り組みを参考に、自社の持続的成長を牽引する経営人材の育成を進めていただきたい。

 

 

※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉で、将来を予測しづらい時代特性を意味する

 

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