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経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
コラム2022.08.01

ジュニアボードを通じた新規事業開発:林 洸一

経営環境の変化と新規事業の必要性

 

昨今の顧客ニーズ・価値観の多様化、デジタル技術の進化、働き方改革の推進、異業種参入など、企業を取り巻く環境は急速に変化している。特に、新型コロナウイルスの感染拡大以降、デジタル化のスピードは加速した。業務プロセス・オペレーションのみならず、商品・サービスをデジタルで提供することを前提としたビジネスモデルの進化も進んでいる。

 

このような時代において、「当社は新規事業を考える必要はない」と言う企業は少ないのではないだろうか。ネットショップサービス「STORES」を運営するストアーズ・ドット・ジェーピーの調査※によると、回答者のうち約80%が、「今後のビジネス活動に不安がある」と回答している。また同調査では、コロナ禍による売上減少の不安だけでなく、消費者ニーズの変化による市場の縮小を不安視する意見も寄せられたという。

 

自社のビジネスモデルを見直すこと、また新たなビジネスモデルの開発は、今の経営環境を生き残るために企業が取り組まなければならない最重要課題である。

 

本稿では、企業が新規事業を開発するためのスキームの中でも、特にジュニアボードを通した新規事業開発のメリットと、ジュニアボードを基に新規事業を開発した企業事例の手法・実績を紹介する。

 

 

新規事業開発と相性の良いジュニアボード

 

企業が新規事業を開発していくスキームとして、大きく5つがある。

 

1つ目は、経営者や経営幹部主導のもと、トップダウンで新規事業を開発する手法である。既存のクライアントやネットワークから新たな事業案が生まれやすく、意思決定のスピードが速いことから、マネタイズまで時間がかからないというメリットがある一方、経営陣だけで進めるため他の社員が置き去りになりやすい。

 

2つ目が、本稿で紹介するジュニアボードを通して新規事業開発に取り組む手法だ。

 

メリットは、①一定期間内で事業案を創出し、計画まで組み上げることができる、②プロジェクトメンバーの経営参画意識の醸成(経営陣だけに任せない意識)、③プロジェクトメンバーの戦略思考の向上、④部門横断で自由闊達な意見交換が可能、の4つである。

 

手順として、まずは全社部門横断で5名前後のプロジェクトチームを複数組成する。次に、各チームで定期的に分科会・ディスカッションを行い、新規事業の立案から事業化計画まで組み上げる。最終的には役員にプレゼンテーションを行い、事業案の具体化(事業化)に向けたアドバイスをもらうという流れだ。

 

新規事業開発とは、「自社の将来を創っていくこと」である。ジュニアボードを通じた新規事業開発は、一過性の取り組みで終わらせるのではなく、毎年メンバーを替えて第2期、第3期と継続的に実施することが重要である。社員の経営への参画意識がより高まり、新規事業開発を企業文化として定着することができる。

 

3つ目は、社内コンペ型の開発手法である。大手企業が実施するケースが多い。社内イベントとして、一定のエントリー期間を設けて事業案を募集し、経営陣による複数回の選考・審査を実施する。企業は、最終審査に合格した事業案に一定の投資を行い、提案者が事業の責任者として事業化していくという流れである。

 

新規事業開発文化の醸成や起業家人材の輩出などのメリットがある一方、社員数の多くない企業ではエントリー数が少なくなりがちで、実施できる企業は限定される。

 

4つ目は、全社員参加型提案による開発手法である。社員は思い付いた事業案を提案し、経営陣がその事業案を取捨選択する。全社員が参加できるためアイデアを集めやすく、社員の投票にインセンティブを設けることで、モチベーション向上につなげることができるが、企業は基本的に提案を待つ受け身の姿勢であるため、「良い案があれば事業化しよう」という消極的なスタンスに陥りやすい。

 

5つ目は、オープンイノベーションによる開発手法である。リアル・ウェブでのオープンイノベーションプラットフォームなどさまざまあるが、近年は産・官・学連携による開発が増えている。オープンイノベーションでの開発は、同業種のみならず、異業種・異分野とのコラボレーションが起こりやすく、社外へのPR・ブランディングにも寄与するが、積極的なプラットフォームの活用を促せなければ、4つ目の手法と同様、「良い相手がいれば実施したい」という受け身の姿勢になりかねない。

 

 

ジュニアボードによる新規事業開発の事例

 

最後に、ジュニアボードによる新規事業開発事例を紹介したい。F社は従業員数約870名の物流企業である。同社は自社の未来のビジネスモデルを創造するべく、ジュニアボードを基に既存ビジネスモデルの進化・新規事業の開発に取り組んだ。そのスキームは、【図表】の通りである。

 

 

【図表】F社のジュニアボードスキーム

出所:タナベ経営作成

 

 

まず、ジュニアボードメンバーを部門横断で16名選抜し、各4名ずつのチームを編成。そこにタナベ経営のコンサルタントを各1名配置し、計5名の4チームを実行体制とした。その後、各チームで分科会を開催し、自社の現状分析から既存ビジネスの付加価値向上策、新規事業案の創出、事業の具体化策立案までを8カ月かけて行った。

 

また、ジュニアボードの実施中は定期的に役員報告会を設け、メンバーは進捗・検討状況を役員にプレゼンテーションし、役員がアドバイスする形で経営陣の関与を促した。

 

結果として、役員最終報告会では4チームで計14テーマもの新規事業案が提案された。その後、役員内で各テーマの判断を行い、6テーマが継続検討対象となった。うち4テーマは第2期ジュニアボードに引き継がれ、事業化に向けて検討中である。

 

メンバーの多くは現場業務に従事しており、現場視点でしか物事を考えていなかった、あるいは自社の事業そのものについて考える機会がなかった社員ばかりである。

 

しかし、ジュニアボードによる新規事業の開発を経て、他部門の業務理解はもちろん、経営戦略という思考から自社の未来のビジネスモデルを考えることにもつながった。中には、「自分も第1期メンバーに入りたかった」という社員の声もあり、早くもジュニアボードはF社の重要プロジェクトと位置付けられている。

 

 

※ストアーズ・ドット・ジェーピー「データから見えるコロナ禍の経済活動の実態」(2020年6月)

 

 

Profile
林 洸一Koichi Hayashi
ストラテジー&ドメイン大阪本部 部長代理。メーカーにて研究開発業務に従事し、2017年タナベ経営入社。クライアントのコアコンピタンスを軸とした新規事業開発や事業戦略策定をはじめ、現在はナンバーワンブランド研究会サブリーダーとして、ブランディング・マーケティング領域においても企業価値を高めるコンサルティング活動を展開する。
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