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【特集】

経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
コラム2022.08.01

ジュニアボードを通じたDX実装:藤原 将彦

 

手段ではなく前提となった企業のデジタル化

 

デジタルネーティブな企業や消費者の台頭により、あらゆる業界でデジタルを前提としたプロダクト・サービスの開発が進んでいる。

 

「現代マーケティングの父」と言われる米の経営学者フィリップ・コトラー氏は、世界最大規模のオンラインマーケティングセミナー「ワールドマーケティングサミット2015」で「Digitize or Die(デジタル化か、死か)」、2020年開催の同サミットでは「同じ事業を続けるだけの企業は5年後消えている」と発言した。企業にとって、DX(デジタルトランスフォーメーション)は生き残るための「手段」から「前提」に変わったのだ。

 

経営環境が急速に変化する中、多くの企業が中長期経営計画にDXを掲げている。しかし、「デジタルに関する知見が深く、DXを推進できる人材がいない」「そもそもDXを推進するカルチャーがない」と悩む企業も少なくない。

 

ただ、現在DXに積極的に取り組む企業のDX推進担当者は、専門的なスキルを持つシステム担当者ばかりではない。自社の本業に従事する実務者が多いのである。つまり、社員育成の機会を創出することで、DXを推進するリーダー・カルチャーを醸成することは可能なのだ。

 

本稿では、次代を担う経営幹部を育成する「ジュニアボードプログラム」を通して、DX実装をテーマにプロジェクト化することをお勧めしたい。

 

DX実装のプロセスを通じて、全社最適・戦略構築力だけでなく、デジタルリテラシー、DXカルチャーのアップデートといった、経営者・経営幹部・部門リーダーに必要なスキルを体系的に学べる。また、ジュニアボードの参加者は、これまで取り組んでこなかった未知の領域にチャレンジするため、一人一人が新しい体験と実績を積み上げることもできるのだ。

 

 

企業事例から見るジュニアボードの要件

 

ジュニアボードを通じたDX実装の際に習得できるスキルは【図表】の通りである。事項では、ジュニアボードを活用したDX実装の企業事例を紹介したい。

 

 

【図表】ジュニアボードプログラムを通じたDX実装で習得できるスキル

※1…Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft ※2…実店舗で商品を見てから購入を検討すること ※3…欲しい商品の情報をウェブで確認した後、実店舗で購入すること ※4…「知りたい」「買いたい」などの感情から反射的にモバイルデバイスで検索すること ※5…つくったプログラムを使える状態にすること
出所:タナベ経営作成

 

 

ケース1:戦略設計重視型
DX戦略・機能別DX戦略の設計

 

製造業A社は、自社の成長要件にDXを位置付け、ジュニアボードで自社のDX全体戦略・アクションプランを設計。役員へプレゼンテーションを行い、承認が取れたテーマから実装を始めた。

 

実施項目は、①経営知識・デジタルテクノロジーのインプット、②現ビジネスモデル・デジタル戦略のアセスメント(客観的に評価・査定すること)、③新ビジネスモデルのグランドデザイン、④DX全体戦略・機能別DX戦略の設計、⑤DX推進体制(プロジェクト・投資の意思決定の仕組みなど)の整備、⑥DX実現に向けた3カ年ロードマップ設計の6つである。DXは攻めから守りまで対象範囲が広くなるため、実施テーマを機能別・カテゴリー別に分けて設計した。

 

結果として、ジュニアボードメンバーのデジタルリテラシーが向上し、各種プロジェクトにおいてシステム担当者との連携強化、生産性向上のためのデジタルツールの検討を行うようになった。

 

ケース2:機能特化型
マーケティングDXの戦略設計と実装

 

製造業B社は、自社の経営課題としてマーケティング・営業企画機能が弱く、現場の業務負荷が増え、十分に顧客創造・育成ができていなかった。そこで、マーケティング機能の確立とDX推進リーダー育成を目的にマーケティングDX(デジタルマーケティング)に特化したジュニアボードを実施した。

 

実施項目は、①経営知識・マーケティングDXに関する知識のインプット、②ライバル・ベンチマーク企業のマーケティングDXの進捗確認、③自社のマーケティングフローの再構築、④MA(マーケティングオートメーション)の実装(ベンダー選定・セットアップなど)、⑤デジタルマーケティングの運用・KPI(重要業績評価指標)マネジメントの構築(集客のためのコンテンツ制作・商品開発の実施など)の5つである。

 

現在は、カスタマーサクセス部門を新設し、マーケティング機能として顧客育成機能を確立することで業績を伸ばしている。また、スモールスタートで成果の出やすい取り組みから実施し、成功モデルとして全社展開していくことで、ジュニアボードを通じた全社改革も実現した。マーケティングフローを抜本的に見直し、MAとインサイドセールスの導入で営業部門の生産性向上も実現している。

 

ケース3:テーマ完結型
重点的な個別DXテーマの実装

 

商社C社は、パーパス・中期経営計画・DX実装をテーマにジュニアボードを実施。1年間のプログラム修了後に、ボードメンバーが各実装項目の推進リーダーとなりワーキンググループを立ち上げた。

 

成果として、顧客価値を高める物流DX、新たなチャネルを開拓するECサイト構築、早期人材育成のための「企業内デジタル大学」の設立を実現した。

 

 

全社最適×イノベーション
推進者を育てる

 

今では特別と言われるデジタル関連のスキルも、近い将来にはビジネスにおけるベーシックスキルとなることが想定される。これからの経営幹部・リーダーには、デジタルスキルの早期キャッチアップが必須である。

 

DX実装をテーマにジュニアボードに取り組み、実装プロセスを通じて今後の環境変化に合わせた「全社最適の意思決定力」と「ビジネスモデルイノベーション力」を備えた経営人材を育成いただきたい。

 

 

Profile
藤原 将彦Masahiko Fujiwara
九州本部 ドメインコンサルティング部 部長。クライアント視点でのコンサルティングスタイルで、企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を中心に活躍中。また、新規事業開発・推進においても、前向きな情熱を持って取り組み、クライアント企業の成長エンジンづくりに貢献している。
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