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【特集】

経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
メソッド2022.08.01

グループ会社の経営者人材を育成する方法とは:高島健二

【図表1】グループ会社の経営者人材育成プログラム

グループ会社の経営者人材育成プログラム

出所:タナベ経営作成

 

 

サクセッションプラン(後継者育成計画)とは

 

ホールディングス化、海外企業も含めたM&A、親族外承継に伴う分社化など、グループ経営のスタイルが多様化する一方で、ガバナンスの強化、働き方改革、BCP(事業継続計画)、DX、M&Aといった時代の潮流は、経営スタイルのアップデートを企業に強く要求している。このような環境下における、後継者の選任・育成にまつわるサクセッションプラン(後継者育成計画)に関するコンサルティングについて詳述する。

 

サクセッションプランとは、将来の社長交代を見据え、後継者を計画的に選定(採用含む)・育成していくことを指す。コーポレートガバナンス・コード※1(以降、CGコード)では、次のように記されている。

 

取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継候補者の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。※2

 

すなわち、取締役会がサクセッションプランの策定・運用に主体的に関与し、後継者候補の人材育成を適切に監督することが求められているのである。ところが実際には、サクセッションプランの取り組みは各企業で思うように進んでいないのが現状だ。

 

世の中の変化のスピードが速くなり、これまでに直面したことのない課題が山積する中、グループ経営における経営課題の解決は「グループ各社」のトップの経営力に委ねられている。換言すれば、グループビジョン、グループミッションから自社の立ち位置を踏まえ、事業会社の成長戦略、組織・人材をマネジメントし、臨機応変に意思決定を行う決断力を持った「社長力」の高い経営メンバーの有無が、10年後のグループ経営の成否を決めると言っても過言ではない。

 

CGコードは上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)において、ガイドラインとして参照すべき原則・指針であるが、「持続的成長に向けた企業の自律的な取り組みを促す」という点においては、上場の有無や企業規模は関係ない。非上場企業でも部課長クラスのマネジャー層に適切な人材を育成・配置し、将来に備えていくことが求められている。

 

 

TCGが提唱するサクセッションプラン

 

通常の人材育成とサクセッションプランでは、育成に関する「視野」や「分野」が異なる。タナベコンサルティンググループ(TCG)のサクセッションプランでは、後継者育成を目的に、経営方針・経営戦略を踏まえた「より長期的視野に立った育成」として、各部門を経験させるジョブローテーションなどを行う。また、通常の人材育成では、ある一部門の中で専門性を高めることを目指すが、サクセッションプランでは、全社横断的に経営層としての期待レベルに達するよう、全分野において育成していく。

 

この違いがあるからこそ、サクセッションプランで経営人材をプールする必要がある。企業の将来を左右する、次期経営者候補はステークホルダーの最大の関心事項であり、従来は現社長が後継経営者を育成して指名することが一般的であったが、企業統治の観点から変革を迫られている。【図表2】のように、将来を担う経営人材をプールしてサクセッションプランを実装させることが重要である。

 

 

【図表2】経営人材の人材プール体系のイメージ

経営人材の人材プール体系のイメージ

出所:タナベ経営作成

 

 

経営者人材に求められることは何か。言い換えると、どういう能力を兼ね備えれば、経営者人材と言えるのか。大別すると、必要なのは、儲かる事業・商品は何かを見抜ける能力(開発感覚・ニーズ感覚)である「事業センス」と、販売・生産(仕入れ)・開発・財務・管理をバランスさせ、総合的に運営する能力である「経営センス」だ。このセンスは正しいステップを踏むことで磨くことが可能である。予備知識がないままで「経営せよ」と言われても、言われた方は困惑するだろうし、期待する成果を得られる確率も低くなってしまうだろう。

 

この2つのセンスを磨くとともに、経営者に必要となるのは、何といっても「社長業とは何か」、その本質や、経営の原理・原則などを押さえ、社長に求められる役割と責任を理解することである。そして、今後の戦略を構築していくためには、これまでの成長過程や成長要因を正しく把握しなければならない。過去の成長の節目を押さえ、現在の企業に発展させた要因を押さえるとともに、過去の成長要因がこれからの成長要因になるのかどうかを検討し、いま何を変えなければならないのか、どのような段階にあるのかを押さえることである。

 

次のステップでは、マーケット分析により、外部環境をあらゆる切り口で見極めることだ。顧客ニーズの変化スピードは速く、多様化している現状において、マーケットがどうなっているかを知ることは欠かせない。自社の事業領域においてマーケットの変化はどうなのか、成長戦略を描けるかどうかなど、検討事項は多岐にわたる。それらを踏まえた上で、自社のビジネスモデルを高収益へ進化させていく。

 

ビジネスモデルが明確化すれば、その実現に向けた戦略的投資計画や、組織デザイン、経営システムといった経営戦略の構築へと進んでいく。何に投資をするのか、また回収計画はどうなのか、またビジネスモデルの実現に最適な組織体制やガバナンスなど、マネジメント体制の構築も忘れてはならない。いくら秀逸なビジネスモデルであっても、組織内にほころびがあれば水の泡となってしまうことを肝に銘じていただきたい。

 

 

※1…上場企業が行う企業統治ガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したもの
※2…日本取引所グループHPより抜粋

 

 

 

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Profile
高島 健二Kenji Takashima
執行役員 九州本部長 中四国支社担当 ストラテジー&ドメイン戦略推進担当。1999年タナベ経営入社。2019年より執行役員。成長戦略におけるビジネスモデルの再構築、事業戦略・経営戦略まで幅広い知見を有し、ゼネラルマネジャーとして活躍中。豊富なコンサルティング経験で、戦略ドメイン&ファンクションの専門性を融合した課題解決を支援し、企業変革のプロフェッショナルとして、高い評価を得ている。メーカー・卸業界を中心としつつ、マーケティングDX・SDGs・新規事業開発の領域など、多岐にわたるクライアントのプロジェクトを指揮。主に、戦略立案、組織風土改革、マーケティング改革など、さまざまな領域の案件を主導している。
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