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【特集】

経営人材育成

ホールディングス化、M&A、親族外承継に伴う分社化など、企業経営のスタイルが多様化する中、自社を牽引する複数の経営人材の育成が急務となっている。中堅リーダーの目線を経営視点まで引き上げる、実践型の「未来創造機能」の実装メソッドを提言する。
メソッド2022.08.01

次代の経営人材を育成する:細江一樹

コンサートのイメージ

 

 

秋元康氏から学ぶ人材マネジメント

 

「AKB48」や「乃木坂46」、「欅坂46」などの総合プロデュースを務め、アイドル産業の中核で“革新”を起こし続ける作詞家・放送作家の秋元康氏。ビジネスパーソンとして、「人材採用」や「人材育成」に関する同氏からの気付きや学びは多い。

 

まず人材採用について、アイドル業界の採用はオーディション形式が基本である。オーディションでは「ルックス」「表現力」などの項目に対し点数を付けて審査するのが一般的だが、同氏は異なる。

 

審査員の誰か1人が「この子いいね」と言えば、たとえ他の全審査員が反対しても合格にするそうだ。審査員それぞれの見方や価値観はそもそも異なっており、その1人と同様の見方や価値観を持つファンがいる、と考えるからである。また、1人の審査員が成長イメージを持てるのであれば、その子は成長していく可能性があるという。

 

次に人材育成について、同氏はアイドル業界で活躍するために必須の「環境」と「機会」を与えながら、メンバーを育てている。実際、AKB48を礎に乃木坂46をデビューさせ、乃木坂46が切り開いた道を欅坂46ほか「坂道シリーズ」のグループが歩んでいる。

 

特にAKB48の人材育成の取り組みは、企業にとって参考になる。AKB48はファン投票による「選抜総選挙」を定期的に実施し、その得票数でレギュラーメンバーが入れ替わっていた。この仕組みにより、メンバーが切磋琢磨し、成長し合える環境と機会を創っていたのである。

 

また、劇場という活動環境も人材育成の取り組みの1つだ。演じたパフォーマンスが、その場でファンに直接評価されるため、成長しやすいのである。

 

 

管理職層の育成が多くの企業の共通課題

 

日本企業の経営課題に関する調査データは種々存在するが、「管理職層のマネジメント能力」については常に課題感が残る結果だ。中でも近年は「次世代経営層の発掘・育成」が上位に食い込んできている。

 

タナベ経営が実施した「2022年度企業経営に関するアンケート」の結果によると、自社で今、特に不足している(強化したい)と感じる人材は「マネージャー(管理職)」が52.3%と最も高く、依然としてマネージャー人材の育成は課題となっている(【図表1】)。多くの企業に共通する経営課題であり、そのソリューションが求められているのだ。

 

 

【図表1】特に不足している(強化したい)と感じている人材(複数回答)

特に不足している(強化したい)と感じている人材(複数回答)

出所:2022年度企業経営アンケート

 

 

企業にとって「人材」は永遠のテーマであり、タナベコンサルティンググループもさまざまなソリューションを提供している。特に近年は、マネジメント層の経営人材育成を課題とする企業が多いが、今回はその中で最も評価を頂いており、年間100社以上が取り組んでいる「ジュニアボードプログラム」を紹介していく。

 

ジュニアボード制度の起源は古い。1930年代の米国で、香辛料で有名なMcCormick社において始められたのが最初と言われている。1932年にC.P.マコーミック氏が36歳という若さで社長に就任したのに伴い、社員の意見を経営に反映させるため、本来の役員会以外に、従業員が参加する疑似役員会や各種の委員会を設けた。同社はこの経営スタイルを「複合経営制(Multiple Management)」、擬似役員会を「ジュニアボード(Junior Board of Directors)」と呼んだ。

 

 

最上の経営人材育成手法
ジュニアボードの効果

 

タナベ経営が提唱するジュニアボードとは、企業経営における「若手(青年)役員会」の位置付けであり、いわば次世代の役員・経営幹部候補をつくる研修である。同時に、単なる座学や経営シミュレーションにとどまらず、「もう1つの役員会」として、自社の経営の現状と将来について具体的な改革プランを発信・提言する機関である。

 

ジュニアボードメンバーは経営に関与する「環境」と「機会」を得ることで、自然とマネジメント能力や経営に関する知見・考え方を身に付けることができる。

 

次に、ジュニアボード活用の目的と期待効果について詳しく見ていきたい。(【図表2】)

 

 

【図表2】ジュニアボードの目的と効果

ジュニアボードの目的と効果

出所:タナベ経営作成

 

 

1つ目は「事業承継」である。事業承継はどの企業も確実に迎える経営テーマだが、後継社長が現社長の経営に対する思想や考え方を引き継ぐに当たり活用している。

 

2つ目は、「経営幹部としてのマネジメントノウハウの習得」である。ジュニアボードを運営する過程で、タナベコンサルティンググループからジュニアボードメンバーに必要なノウハウを提供していく。そして、そのインプットを通じた「高品質なアウトプット」を目指している。

 

3つ目は、「経営意識の向上」である。機会がない限り、経営幹部や役員以外の社員が経営を意識することはなかなかない。ジュニアボードの取り組みを通じ、経営者・経営幹部のモノの見方・考え方を身に付けることができる。

 

この他にも、「若手による新しくて若々しい発想や、現場からの発想などに基づく提言を現役員会に投げ掛けることで、経営判断に新しい視点を与える」「ジュニアボードの活動を通じて、ボードメンバーの経営者的な感覚・行動を評価し、次世代の役員・経営幹部登用の登竜門とする」「起業家精神の育成」などの効果も期待できる。

 

 

 

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Profile
細江 一樹Kazuki Hosoe
戦略総合研究所 副本部長。アパレル商社を経て、2006年タナベ経営入社。2021年より北海道支社副支社長兼教育・学習ビジネス研究会リーダー、2022年現職。学校・教育業界における経営改革やマネジメントシステム構築を強みとしており、大学、専門学校、高等学校、こども園などにおいて、経営改革の実績を持つ。また、「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成はもちろんのこと、高齢者・女性の活躍を推進する制度の導入などを通じ、社員総活躍の場を広げるコンサルティングにも高い評価を得ている。著書に『教育改革を先導しているリーダーたち』(ダイヤモンド社)がある。
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