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企業内大学

企業にとって最大の経営資源である「人」は、自社の存続・成長に欠かせない大切な存在だ。持続的成長の基盤となる、デジタルとリアルを融合させた総合的な学習・育成システム「FCCアカデミー(企業内大学)」の設立・運営メソッドを提言し、社員の成長を自社の発展につなげるモデル事例を紹介する。
コラム2022.07.01

エンゲージメントの高い組織・人材づくりの3つのポイント:藤田 奈緒

 

 

多くの企業が直面する優秀人材の流出問題

 

高度経済成長と生産年齢人口の増加を前提に日本で普及した「終身雇用」。2019年、トヨタ自動車の代表取締役社長の豊田章男氏が「終身雇用を守るのは難しい局面に入ってきた」と発言して以降、制度崩壊への危機感がいっそう高まっている。企業の持続的成長を目指す長期的観点から、「成果主義型」の人事制度や人材育成へと移行する企業が増えているのだ。

 

その結果、優秀な人材はより良い待遇や環境を求め転職することが一般的となった。コロナ禍で急速に普及したリモートワークや副業の解禁などの雇用形態や働き方の多様化も要因の1つである。人材の流動性が増した昨今、多くの企業は優秀人材の流出という問題に直面している。

 

こうした状況の中、注目されているのがエンゲージメント(社員の自社に対する愛着心や思い入れ)の高い組織・人材づくりである。エンゲージメントを高めることで、社員の定着を促すだけでなく、労働生産性や営業利益率の向上にもプラスの影響をもたらす。また、エンゲージメントの高い社員が、自社に貢献するために主体的に動き、高いパフォーマンスを発揮して顧客満足度の向上にまで影響を及ぼすと考えられているためだ。

 

厚生労働省の「令和元年版労働経済の分析」(2019年)によると、ワーク・エンゲージメントの向上が個人の労働生産性向上につながる可能性があると示唆されている。

 

 

エンゲージメントを高める3つのポイント

 

エンゲージメントを高めるためのポイントとして、次の3点が挙げられる。

 

❶主体的に働くための動機付けと環境整備

 

まずは、経営理念の浸透・共感を促す社内研修の実施である。

 

社員が目的意識を持って働くことが、エンゲージメントを高める第1ボタンとなる。社員一人一人が自社の経営理念を腹落ちするまで理解し、共感することで、日常業務において理念を体現できるようになることが重要である。

 

経営理念への「共感」を促すためには、理念の成り立ちや背景をトップが社員に伝えたり、経営理念に対してどのような思いを抱いているのかを社員同士が言葉にして話し合ったりする機会を創出することが効果的だ。

 

❷コミュニケーションの活性化とモチベーション向上

 

ポイントの2つ目は、コミュニケーションの活性化と仲間意識を醸成する研修内容の充実である。

 

社内研修は、社員一人一人のスキルアップを支援するだけでなく、社内のコミュニケーション活性化を図る機会にもなる。

 

具体的な手法として、難易度の高いテーマを与えて社員同士でアイデアを出し合わせ、仲間意識の醸成を手助けする方法や、自由な雰囲気の中で意見交換を行う「ワールドカフェ」という形式などがある。

 

また、社内研修で定期的に顔を合わせることで、社員同士が自然に良い関係性を築くことが、研修に対するモチベーション向上にもつながる。

 

❸成果測定と評価

 

最後のポイントは、社内研修と連動した実務における成果測定である。

 

社内研修の最終的な目的は、社員・企業の双方の成長だ。そのため、成果測定は可能な限り業績とひも付く指標で測り、その指標の達成度と連動して個人の成長を適切に評価することが重要である。やみくもに社内研修を行うだけでは、実施している目的を見失い、研修に対するモチベーションの低下につながりかねない。

 

ただし、業績にひも付く指標は一概に研修の結果とは言えないため、MBO(目標管理制度)や日常のマネジメントを通じたプロセス評価も併せて行う必要がある。自分の成長を総合的かつ適正に評価されていると感じられる点で、上司との信頼関係を強化でき、社員のエンゲージメントを高めることにもつながる。

 

以上が、エンゲージメントの高い人材を育成する社内研修の実施ポイントである。

 

 

組織づくりは社内研修の工夫から始める

 

最後に、社内研修を通じて社員のエンゲージメントを高めている企業事例を紹介したい。関東を中心に店舗を展開する小売業A社は、グループとして「A社理念」を掲げ、理念の浸透と実践に向けて試行錯誤を行っている。その1つが、毎月1回ウェブで実施している「郷中会」と呼ばれる理念研修である。

 

郷中会は、幕末の薩摩藩で行われていた「郷中教育」をモデルとしており、年長者が年少組を指導する教育システムである。「郷中」とは、「方限」という区割りを単位とする自治組織で、この郷中ごとの青少年を年齢で4区分し、特定の教師を付けずに年長者が年少組の心身を鍛える仕組みだ。その手段の1つとして「詮議」と呼ばれる思考訓練があり、不確実な状況の中で的確な判断を敏速に行うための問答形式の訓練を行っていた。

 

また、郷中にはそれぞれのグループに頭が存在する。幕末から明治前期の武士である西郷隆盛は20歳のころ、「頭として頭角を表していた」と伝えられており、郷中会はリーダー育成システムかつ人材登用システムであったとも言われている。

 

A社で行っている郷中会は、まさにこの仕組みである。1班4~6名で構成されるチームで、A社理念と日々の仕事をテーマに、社員が定期的に詮議を繰り返している。

 

郷中会を取り仕切るリーダーのための教育も並行して行っている。「人を育てる、人を導く、人望を集める」ことを目的に掲げ、郷中会はリーダーに不可欠なスキルを育む場として役目を果たしている。

 

郷中会の実施効果として、①詮議によって社員がA社理念を腹落ちするまで理解できる、②職場で同じ目標・悩みを持った仲間と心を通じ合わせ、切磋琢磨し合う同志を得る機会を創出する、③実務に生かし成長を遂げる社員が増え、結果として顧客満足度や生産性の向上につながっている、といった点が挙げられる。

 

郷中会は、先に述べたエンゲージメントを高める3つのポイントを満たすことで、エンゲージメントの高い組織づくりを実現しているのだ。

 

社員のエンゲージメントを高めることは、個人と企業、双方の成長・発展に寄与する。本稿で紹介した社内研修は、新しく企画し立ち上げることも可能であるが、既存の社内研修に少しの工夫を行うだけでも効果を実感できるだろう。エンゲージメントを高めるための取り組みとして、ぜひ実践していただきたい。

 

 

 

 

Profile
藤田 奈緒Nao Fujita
2018年、タナベ経営入社。人事制度や教育制度の構築支援、セミナー講師・運営など、人材育成の現場に幅広く携わる。階層別・テーマ別の教育カリキュラム策定から企業内講師育成・研修運用までを支援し、中堅・中小企業の人材育成内製化を実現した経験を多数持つ。人材育成研究会のサブリーダーを務め、「業績に直結する教育の効果的な運用」を研究中。
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