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【特集】

企業内大学

企業にとって最大の経営資源である「人」は、自社の存続・成長に欠かせない大切な存在だ。持続的成長の基盤となる、デジタルとリアルを融合させた総合的な学習・育成システム「FCCアカデミー(企業内大学)」の設立・運営メソッドを提言し、社員の成長を自社の発展につなげるモデル事例を紹介する。
コラム2022.07.01

ますます求められる「人」を中心とした経営:盛田 恵介・久保 多聞

デジタルを活用した学びのプラットフォーム

 

依然として先行き不透明な経営環境の中、ビジネスモデルを変革する企業が増加している。また、これを実現するために、人材の変革も求められている。

 

一方、人事領域でいえば、コーポレートガバナンス・コードの改訂における人的資本の具体的な開示、人材の流動性の高まりや戦略遂行に伴う多種多様な人材の配置、HRテックと称されるデジタル化への移行といった変化が著しい。これらを踏まえると、今後ますます「人」にフォーカスした経営が求められると考えられる。

 

こうした変化を見据え、タナベ経営では「学びを止めない」「会社に学校をつくろう」をキーワードに、FCCアカデミー設立コンサルティングで140を超える企業内大学の設立を支援してきた。クライアント企業の人材育成体系からカリキュラム・コンテンツづくりまで、プロジェクトメンバーとともに設計していく内容だ。

 

コロナ禍ということもあり、クライアント各社に共通する企業内大学のコンセプトは、リアル(対面研修・実地)とデジタル(オンライン研修・オンデマンド講座)を組み合わせた「ブレンドラーニング」の確立である。このコンセプトに基づき、各社とも若手人材の早期戦力化や技術の伝承、加えてリーダー人材への育成に取り組んだ。いわば、「デジタルを活用した新しい学びのプラットフォーム」を、この1~2年で構築したのである。

 

 

学びのプラットフォームの5つの課題

 

新たな学びのプラットフォームを構築・実施したことにより、オンライン・オンデマンドを活用してコロナ禍においても学びを継続し、かつ生産性向上につなげられたのは大きな成果であった。一方、実行する上での課題も明確となった。その課題を要約すると次の5つである。

 

❶デジタル化によるコミュニケーション方法の確立と講師のスキルアップ

 

従来は、対面研修で直接コミュニケーションを図っていたため、オンライン上での対話や議論に不慣れで、うまくコミュニケーションが取れない。また、オンデマンド講座中心に研修を進めていた企業は、知識習得にはつながったものの、学んだことを互いに確認し合う場や、他者の意見からの気付きの場がないと悩みを抱えているところが見受けられた。

 

❷成果・効果の可視化

 

対面研修では、年間計画の遂行状況や出席率、アンケート回収率に加え、成果物も明確であった。一方、デジタル化が進むにつれ、対個人へフォーカスされることが極めて多くなることから、進捗度合いや成長度を把握しづらい。これにより、投資に対して本当に成果が出ているのか、疑問を持つ企業が多数見受けられた。

 

❸戦略に基づく未来の必須知識・スキルの習得

 

階層・役割・職種別に過去・現在保有しているノウハウ・知識・スキルの習得を目的に、定義・要件を踏まえ、カリキュラムを構成するケースが多い。しかし、冒頭で示した通り、先行き不透明な経営環境の中、ビジョンを掲げて具現化していく上では、これを実現させる人材像の明確化とともに、必要とする知識・スキルを高め実行へひも付けていかなければならない。いわゆる「リスキリング(学び直し)※1」である。リスキリングの中で、現在多くの企業が取り組もうとしているテーマが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。

 

❹企業内大学・育成支援制度などの認知度向上

 

「受講率が伸び悩んでいる」「研修への参加率が落ちてきている」など、運用している中で多くの課題を耳にする。課題の本質を突き詰めると、学びの目的や必要性が理解されていない、あるいは伝わっていないことが多い。企業が学びや成長の機会を準備しているにもかかわらず、社員がそれを知らないという状態である。

 

これに加え、自社の実施しているカリキュラムやコンテンツ内容にも着目していただきたい。今の若い世代は、YouTubeなどの動画や、オンラインでの対話に慣れている。つまらなければ頭に入らない。頭に入れてもらうためには、どのような工夫が必要なのか、「つまらない研修」から脱却を図る必要がある。

 

❺モデル人材の創出

 

「研修を受講すると、どのような人材になれるのか」というロールモデルを輩出することで、受講メンバーの目指すべき姿を明確にする。受講者の「あの先輩のようになりたい、目指したい」といった意欲をかき立てる効果もあるだろう。

 

ある食材卸売業のAグループは、毎年、経営幹部人材やリーダー人材を輩出するためのスクール型研修を実施している。本研修の優秀者は、確実に昇進・昇格させ、またグループ会社の経営者へ登用している。これがグループ内で浸透したことにより、指名して参加させていた研修が、現在は社員が自主的に参加する形へと変わりつつある。

 

ポイントは、モデル人材(成果や研修の修了)を明確にしたことである。今ではモデル人材に本研修の講師を担わせ、さらにグループ内への浸透を高めている。

 

これら5つの課題を一言で表現すると、「新たな学びのプラットフォームは構築されつつあるが、現代の環境に即した学習モデルが未確立な状態」と言えるだろう。

 

 

令和時代の学習モデル

 

従来の人材育成では、専門スキルの向上や知識のインプットといった「再現性」が注目されていた。エース級社員をロールモデルとしたサクセスシナリオや、今まで企業として培ってきたスキルと成功ノウハウを新人に教え、効率的に成功パターンを「再現」させるような人材育成が一般的であった。もちろん、この人材育成自体は間違いではない。成功パターンを再現するため、人材育成に失敗する確率は低いのだ。

 

この再現性を中心とした人材育成モデルを、便宜上「平成モデル」と表現しよう。平成モデルにおいて最も重要なのは、「教育者」の存在である。すなわち、「誰が教えるか」「何を教えるか」といった教育者依存型のモデルであり、よく挙がるのは、「教えられる人がいない」「忙しくて教えられない」といった課題である。

 

これらの課題を解決するために、タナベ経営では「FCCアカデミー」として、“一人の教育者が、多くの人材に対して時間・場所を問わず教えられる環境づくり”を、また「FCCセミナー」として、“外部のプロフェッショナルが、理論と実践に基づく人材育成を行う場”を提供している。

 

しかし、この人材育成モデルも進化しなければならない。なぜなら、新型コロナの感染拡大をはじめとする環境変化によって、求める人材が変化してきたからである。タナベ経営が毎年実施している「企業経営に関するアンケート調査」の結果によると、「専門知識・スキル・技術を持つ人材」よりも「自律性」「コミュニケーション」「クリエーティブ」などの人材が求められていることが分かる。(【図表1】)

 

 

【図表1】自社が求める人材像(複数回答、上位3つ)

出所 : タナベ経営「企業経営に関するアンケート調査」(2022年2月)

 

では、そうした人材を、再現性を中心とした平成モデルで育成することができるだろうか?

 

平成モデルは、人材の早期育成においてはメリットが大きい半面、考えを“フォーマット化”するため、「自分で考える」という能力は育ちにくい。ここをカバーするために、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)による育成や、MBO(目標管理制度)、OKR※2などの制度的手段が採られてきた。

 

しかしながら、求められる人材が変化してきている今、人材育成の方法を変えていかなければ、本質的な解決にはならないだろう。

 

平成モデルが再現性であったのに対し、「令和モデル」ともいうべき人材育成に必要なのは「創造性」、すなわち「マインドセット」を中心とした、考え方や思考のアウトプットである。令和モデルでは、「誰が教えるか」よりも、学習者目線で「誰と学ぶか」「何を学ぶか」によって成長が変わってくるのである。(【図表2】)

 

【図表2】人材育成の平成モデルと令和モデル

出所 : タナベ経営作成

 

 

自律性やコミュニケーション、クリエーティブの根幹となるのは、「気付き」である。

 

この気付きは、フォーマット化された人材育成では身に付かない。なぜなら気付きは興味・関心から生まれるからである。「〇〇をすべき」ではなく、「〇〇をしたらどうなるか?」というような興味・関心を創出することが、次世代の人材育成には求められる。

 

ここで別のアプローチをしてみよう。

 

新型コロナを契機として、多くの企業がオンライン研修を導入するようになった。コロナ禍前からデジタルを活用した「FCCアカデミー」を導入してきた企業は大きな影響を受けなかったが、未導入の企業においては、人材育成そのものが大きく変化しただろう。オンライン化によって、手段は増え、効率化した。しかし、学びの「質」はどうだろうか?

 

多くの企業が頭を悩ませているのは質の向上だろう。質の向上を阻害する要因として、対面研修のような「強制力」が働かないことが挙げられる。

 

対面研修であれば集中して聞き、質問があれば質問をするが、オンライン研修では別の作業をしていてもばれなかったり、そもそも発言しなくても許されることが多い。

 

つまり、対面研修では半ば強制的に参加させることができるが、オンライン研修になった途端、表面上は参加していても、実際のところ参加しなくても良くなるのである。

 

ここで注意したいのは、「オンライン研修に強制力を持たせるにはどうすれば良いのか?」を考えるのではなく、「参加してもらうためにはどうすれば良いのか?」を考えることである。つまり、学習者に興味・関心を持たせ、期待感を持たせる「演出力」こそがオンライン研修においてはより重要となる。

 

 

※1…新たに発生する業種や職種に順応するための知識やスキルを習得することを目的に、人材の再教育や再開発をする取り組み
※2…OKR(Objectives and Key Results)とは、組織が設定する目標と、目標達成のために必要な成果を結び付け、方向性を明確にする目標管理手法

 

 

 

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Profile
盛田 恵介Keisuke Morita
2001年タナベ経営入社。セミナー責任者を経てコンサルティングに携わる。人材育成研究会リーダー。人づくりをデザインする総合プロデューサーとして、中堅・中小企業の人事・教育制度構築から運用に至るまでトータルでサポート。特に、さまざまな業種・業態の企業内大学(社内アカデミー)設立に実績を有し、多くの社員の成長を促すプログラム開発にクライアントから高い評価を受けている。
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