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デシジョンマネジメントシステム

的確で迅速な経営判断が求められる今、社員が質の高い意思決定を行うことができれば戦略実行の精度が上がり、生産性の向上や利益の最大化につながる。管理会計とその運用を含む「意思決定のマネジメント」について提言する。
コラム2022.06.01

業績向上に向けた予算編成・予算統制のポイント:公文 拓真

予算の意義とポイント

 

依然、新型コロナウイルスの猛威が続く中、2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻でカントリーリスクが高まるなど、先行き不透明な経営環境が色濃くなっている。

 

経営の先読みである予算の確実性を担保することが非常に難しくなっている半面、激変する経営環境だからこそ、社員に経営の方向性を指し示す羅針盤たる予算は、従来以上に重要性を増している。全社員の目標を一致させ、実績と予算対比を行うことで“現在位置”を把握するために、予算は必要不可欠なのである。

 

また、従来のトップダウン型の予算編成では、部門長が予算を策定する経験に乏しいため、事業承継などにより新たな経営者にバトンタッチする際に、マネジメント不在に陥る懸念がある。次世代へのサクセッションプラン(事業承継計画)を検討する上でも、今一度、予算の在り方について見直す必要がある。

 

予算管理における重要なポイントとして、次の5点を挙げる。

 

❶中期経営計画の戦略・目標を実現するものであること

 

予算数値は中期経営計画に基づく年度計画の数値がベースとなっている。言い換えれば、前段として中期経営計画の策定が必須であり、年度予算は中期経営計画と整合した数値になっていなければならない。予算は独立した概念ではなく、経営理念から連なるバックボーンシステムの一部なのである。

 

❷客観的に達成可能な妥当性のある数値であること

 

予算は社員の目標達成に対するやる気を引き出す側面もある。高すぎるハードルは社員のモチベーション低下につながり、業績向上の確実性を低下させる。

 

よって、適切な予算編成においては合理的な数値を設定するため外部環境・内部環境分析が必須となる。

 

❸管理組織単位に合わせた比較可能な予算であること

 

例えば、売上高予算であれば「部門別、顧客別、商品別などの管理単位ごとに編成すべき」である。一方、経費であれば「部門別では編成するが、支店別では管理不可能費が多いためあえて編成しない」など、予実対比の合理性に基づいた管理単位の予算を編成すべきである。コントロールできない予算は本来の趣旨から逸脱するため、自社のマネジメントレベルを把握して予算項目を決定する必要がある。

 

❹実効性の高い予算統制の仕組みが構築されていること

 

ただ予算を立てるだけでなく、定期的に予実差異を把握し、要因分析をしたのち差額対策を検討・実行できるような予算統制の仕組みが構築されている必要がある。単純に財務数値だけの管理ではなく、財務数値にひもづく戦略・戦術の管理と見直しによるPDCAを回す必要がある。

 

❺評価制度と連動していること

 

予算管理は部門や個人の業績評価と連動している必要がある。予算達成度に応じて部門や個人の評価を行うことでモチベーションを高め、より全社の方向性を統一する。

 

 

予算編成

 

予算編成は、上位の中期経営計画における年度計画に基づいて大枠が決定され、部門予算・個人予算へブレイクダウンされていく。

 

一般的な予算編成のフローは【図表】の通りである。このフローで重要な機能が予算担当部門だ。一般的には経営戦略部門が担うことが多い。予算編成のタイプとして、経営層から目標値を落とし込むトップダウン型予算編成と、部門から予算を積み上げるボトムアップ型予算編成があり、その両方において合理的な予算の基準となる外部環境・内部環境分析を予算担当部門が行う。また、トップと部門間の予算の調整を行うなど、予算編成をコーディネートする役割を担う。

 

 

【図表】一般的な予算編成フロー

出所:タナベ経営作成

 

 

併せて予算編成のフローやマニュアルを整備することも重要である。多くの企業では予算編成がトップや担当者に属人化し、ブラックボックス化している。世代交代や担当者の退職などにより、予算編成自体が行えなくなるなどマネジメント不在に陥るケースも多い。サクセッションプランの一環として予算編成業務の見える化は必須である。

 

 

予算統制

 

予算統制は、一般的に月次で実績を集計し、予算との比較を行うことで予実差異を把握して、対策につなげる業績改善活動である。ただ、昨今ではマネジメントスピードがより求められているため、必要に応じてダッシュボードを活用した日次~週次の予実管理を各レイヤーで行うことも検討していく必要がある。予算統制の一般的なフローは下記の通りである。

 

❶実績集計

 

実績検討会議までに前月の月次決算を終えていなければならない。よって、月次決算を月初から7営業日~10営業日までに締めるための体制づくりが必須である。

 

❷差額要因分析

 

適切な対策を講じる上で差額の原因究明は非常に重要である。分析の際には、ロジックツリー状に要因を分解することで、差額の真因をつかみやすくなる。

 

❸差額対策検討

 

要因分析結果に基づき、当該部門で対策を立案。業績検討会議で発表し、全体で差額対策を検討する。会議を単なる“報告会”としないことがポイントである。最終的にはトップが対策についてフィードバックを行い、実行に移す。

 

❹対策実行・振り返り

 

実行した差額対策の結果を翌月の業績検討会議で振り返る。これにより対策の実効性が上がり、予算管理のPDCAが円滑に回るようになる。

 

予算とは経営における羅針盤である。その効力を最大化するためには、予算編成に必要な外部・内部環境データや、予算統制における差額要因分析に必要な実績データの提供が重要であり、それらの情報管理体制を整備することがデシジョンマネジメントシステムの構築である。

 

 

 

 

 

 

Profile
公文 拓真Takuma Kumon
銀行出身。リテールからホールセールまで融資・預金・投資部門を担当。タナベ入社後は主に管理会計を中心とした財務戦略やホールディングによる資本戦略策定などを担当。また上場企業向けに企業価値向上の観点による中期経営計画策定などコーポレートファイナンス面のコンサルティング支援も得意とする。
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