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【特集】

デシジョンマネジメントシステム

的確で迅速な経営判断が求められる今、社員が質の高い意思決定を行うことができれば戦略実行の精度が上がり、生産性の向上や利益の最大化につながる。管理会計とその運用を含む「意思決定のマネジメント」について提言する。
コラム2022.06.01

意思決定の精度とスピードを上げるマネジメントシステム:齋藤 正淑

日本企業のビジネス効率の低さ

 

新型コロナが発生して2年以上経過した。以前の日常が戻るまでは時間がかかると思われるが、経済活動は確実に動いている。経済が成熟して経営のかじ取りが難しい中で発生した新型コロナの経営へのインパクトは大きく、企業の進化のスピードを10年前倒しする勢いだ。

 

そのような中、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表する「世界競争力年鑑2021」によると、日本の競争力総合順位は64カ国中31位と低迷している。経済規模が世界3位の先進国としては全く不甲斐ない結果であり、総合順位を決定する全4項目(経済状況・政府効率性・ビジネス効率性・インフラ)を確認すると、最も順位が低いのは「ビジネス効率性」である(48位)。

 

日本は中小企業大国と言われるが、規模の大小を問わず、ビジネスの効率性を高めなければ、日本の競争力は低迷を続けることになる。

 

コロナ禍においても業績の良い会社と悪い会社がある。コロナ禍において経営スタイルを大きく変えて業績を維持、あるいは伸びている会社もあれば、赤字に耐え忍び、助成金を得ながらコロナが過ぎ去るのをじっと待つ会社もある。コロナが過ぎ去ったとき、どちらの会社に成長余力があるだろうか? 答えは言うまでもない。前者が生き残り、成長することは明白である。

 

どのような時代においてもこうした違いはあり、それゆえに企業競争が起きて新陳代謝が図られる。これまでは後者の判断をしても生き延びることができたのが日本企業(国の政策的延命措置)の特徴であったが、コロナ禍で助成金を大判振る舞いした政府に、変われない企業を支える財源はない。赤字を耐え忍ぶ経営は、いずれ限界が来るということである。

 

さて、業績の良い企業と悪い企業の差は何だろうか?それは意思決定力である。自社のビジョン実現に向けてどこへ投資し、何をどう変えるべきかを把握して意思決定し、行動に移しているか否かだ。「企業は意思決定の産物である」と言われるが、リーダーの正しい価値判断とスピーディーな「意思決定(デシジョン)」で会社の姿が決まる。

 

 

デシジョンマネジメントの必要性

 

前述した通り、企業はさまざまな意思決定の結果として存在している。「意思決定」と「結果」は明確な因果関係にあるが、「結果」は100%コントロールできない。コントロールできるのは、意思決定(デシジョン)である。企業を成功に導くためには、スピーディーに実態を捉え、正しい価値判断の下で、迷いなく意思決定できるリーダーの存在が欠かせず、その意思決定を支援する経営管理の仕組み(デシジョンボード)が必要なのである。

 

企業における意思決定とアウトプットは、戦略設計から対策まで4つの段階で表すことができる。(【図表1】)

 

 

【図表1】企業における意思決定とアウトプット

出所:タナベ経営作成

 

 

戦略は、理念・ビジョンに立脚しており、自社の事業領域においてどうポートフォリオを組み上げていくかが重要となる。自社の理念とビジョンの実現に向けて、外部環境・内部環境を把握し、適切な戦略を組み上げることである。

 

計画は、戦略実現のための複数の戦略オプション(投資を含む)を検討し、実効性が高く最も成果の期待できるものを選ぶ。限られた経営資源で戦略を推進するためには、あれもこれもではなく、あれかこれかに戦略を絞り込み、重点・集中・徹底することを目指す。

 

実行は、決定された戦略オプションを推進するための経営資源の投下であり、その推進のためのマネジメントと、実行推進のためのリーダーシップが重要になる。

 

対策は、実行した結果の検証であり、目標との差額を埋めるための対策立案と行動になる。結果の把握と差額の認識、対策検討・行動までのスピードが何より大切である。

 

これらのステップにおける意思決定を正しく、スピーディーにこなすため、経営トップから現場の社員までが共有できる一連のマネジメントシステム(デシジョンマネジメントシステム)が必要になる。

 

 

意思決定ステージ別のマネジメントシステムとデシジョンポイント

 

各意思決定ステージにおけるマネジメントシステムとデシジョンポイント(意思決定要素)は【図表2】の通りである。これらのマネジメントシステムが社内にあり、経営トップから社員に至るまで、正確かつタイムリーに情報提供がなされ、ここを羅針盤としてリーダーが意思決定していく状況をつくることが重要である。

 

 

【図表2】各意思決定ステージにおけるマネジメントシステムとデシジョンポイント

出所:タナベ経営作成

 

 

各マネジメントシステムの意味とポイントは次の通りである。

 

❶中期経営計画モニタリングシステム

 

企業の中期経営計画には、経営戦略と戦略オプション、中期(3~5年)におけるKGI(重要目標達成指標)・KPI(重要業績評価指標)が明示されている。3~5年に1度の策定だけに、つくってそのままの企業も多いのが現実である。

 

中長期にわたる持続的成長のためには、中期経営計画を軸にした経営への移行が必要となる。中期経営計画の設計要素をモニタリングし、常時進捗を把握することと、必要に応じて戦略変更の意思決定ができる状況をつくることが必要となる。

 

❷予算統制システム

 

企業の年度予算は、中期経営計画を踏まえて策定される。その策定から統制までの仕組みが会社の制度として整備・運用されることが大切である。

 

予算の決定と執行における決裁権と、実績や差額対策のレポートライン(指示命令系統)が明確になっているなど、組織として予算を達成していくためのさまざまな仕組みの整備も重要になる。まさに、組織的に戦略を推進していくための数値管理の仕組みである。

 

❸セグメント会計システム

 

予算統制・戦略推進コントロールにおいて大切なのが、セグメント会計システム(管理会計)の整備である。目標の達成度に関しては、部門や得意先、商品、ドメイン、エリアなど、さまざまな角度から詳細を把握し、達成のために対策を加えていく必要がある。これらのセグメント情報が把握できないようでは、的確な手が打てず予算の達成はままならない。ひいては戦略推進力が弱まることになる。

 

❹先行業績管理システム

 

野球は9回で勝負がつく。経営は1年12カ月での勝負であり、12回のチャンスがある。年度の予算を達成するには、先手・先行で手を打ち、確実に勝利(達成)を手に入れることが重要であり、そのためのツールが業績先行管理システムである。

 

ポイントは先行業績の見込みであり、3カ月先、6カ月先の業績を正確に把握できる仕組みが必要になる。3カ月、6カ月先の業績差額が分かり、その差額に3カ月、6カ月前から対策が打てれば、差額を解消できる可能性が一気に高まる。過去の結果に対策を打つだけでは、差額はなかなか埋まらないのである。

 

 

 

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Profile
齋藤 正淑Masayoshi Saito
会計事務所業界で監査・会計指導業務を経て1995年にタナベ経営に入社。2019年度より執行役員コンサルティングサポート東京本部長に就任。経営ビジョン・戦略策定、組織体制デザイン、財務・資本政策立案、事業承継戦略の構築を得意とするタナベ屈指のコンサルタント。中堅企業の総合的な経営基盤強化を、収益構造の再構築により実現すると共に、その推進を支えるマネジメントシステム構築、経営人材の育成で数多くの実績を持つ。
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