TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
メソッド2022.05.02

中期経営計画の策定・見直しとSDGsの親和性:井上 裕介

 

 

【図表】A社の「ビジョン2030」

出所:A社公式HPよりタナベ経営作成

 

 

コロナ禍による急激な経営環境の変化

 

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから2年超。「アフターコロナ」「ウィズコロナ」という言葉が生まれ、ウイルスと共存しながら経済活動を行うことは必須である。

 

このような経営環境でクライアント企業からよく相談されるのが、中期経営計画(以降、中計)の策定・見直しだ。主な理由として、新型コロナウイルス感染拡大が始まった2020年のような、直近の予測すら全くできない状況とは異なり、現在は経済や社会が自社に及ぼす影響がある程度は予測できるようになり、中計を大きく見直す企業が増えていることがある。

 

アフターコロナにおいて、企業が中計を見直す効果は大きい。理由は主に次の3つである。

 

❶コロナ禍による外部環境の変化

 

❷リモート会議・ペーパーレス化をはじめとしたDXや小売業のEC化などによる市場環境の変化

 

❸従来の経営・事業戦略が通用しない業種・業態が増えており、自社の見通しに社員が不安を抱えている

 

急激な経営環境の変化によってアフターコロナより前に策定した中計は意味をなさないものになっているため、早急な見直しが求められているのだ。

 

 

中期経営計画にSDGsの項目を組み込むメリット

 

もう1つ、クライアント企業から相談を頂く中で多いのが、SDGs達成に向けた取り組みである。理由は、環境意識の高まりや社会的トレンド、ESG投資を意識する必要性、SDGs達成の期限である2030年が近付いているなど、さまざまある。

 

中計の策定・見直しとSDGsへの参画は、同時に考えるべき企業課題だ。自社の未来のあるべき姿を定める重要な取り組みであり、バックキャスティング(在るべき姿からの逆算)が必要だからである。

 

中計とSDGsは親和性が高いため、同時に検討することをお勧めしたい。ここでは、SDGs達成に向けた取り組みを中計に組み込んでいる企業事例を3つ紹介する。

 

❶中計の重点施策にSDGsに関する項目を組み込むA社

 

大手海運業のA社は、中計の目標値設定年をSDGsの達成目標である2030年に設定している。中計ではSDGsの達成を明言しており、重点強化策の1つにサステナビリティへの取り組みを掲げている(【図表】)。中計のテーマを「ビジョン2030」とし、2030年までに達成する目標値を設定しているのだ。

 

2030年というSDGsの達成目標年と自社施策の目標達成年を重ねることで、SDGs達成に向けた取り組み施策・基準をステークホルダーに分かりやすく伝えている。多くの企業が採っている方法だが、社内外に発信しやすい良例である。

 

❷SDGsの考え方を自社の事業に取り入れるB社

 

鉄鋼や食品など幅広い商材を扱う大手卸売業のB社は、SDGsの考え方を自社の事業に取り入れ、本業を進化させている。

 

同社では、中計の施策の中に、「SDGsを取り込んだ新規事業への挑戦」を掲げている。取扱商品のみならず、流通プロセスにおける環境負荷が大きい卸売業であるからこそ、既存の事業に加えてSDGsを取り込んだ新規事業への挑戦を掲げているのだろう。SDGs17のゴールから関連する目標を選択し、「バリューチェーンに何をどのように組み込むか」を示している。

 

中計の施策・アクションプランにSDGsに関する施策を組み込んでいるため、実行強制力が高い。SDGsへの社内浸透度が低い企業や、既存の事業だけでは取り組みにくい企業に適している施策事例である。

 

❸SDGs17のゴールを自社の中期経営目標に組み込むC社

 

建設資材メーカーのC社は、自社の長期ビジョンである「ビジョン2025」において、財務指標とは別に非財務指標として、「CO2(二酸化炭素)の国内総排出量を26%減(2013年度比)」という目標を掲げている。同時に、事業を通じたCSV(共通価値創造)としてSDGsの17ゴールに沿った施策を記載。「社会の公器として、事業における収益・財務目標だけでなく、環境目標の達成も必要」という考えのもと、中計を策定している。

 

中計の施策・アクションプランを実行することで、事業の成長と環境への貢献を同時に行うことができるため、SDGs貢献の実行度を高めることができる事例だ。

 

以上のように、中計の策定・見直しとSDGsへの参画を同時に行うメリットや事例を紹介したが、重要なのは、「中計に関する施策とSDGs達成に向けた取り組みの一貫性」である。これを踏まえ、中期ビジョンとSDGs達成に向けたビジョンの方向性をそろえ、SDGsの達成を中計へ落とし込んで、積極的に発信していただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

Profile
井上 裕介Yusuke Inoue
大規模リゾート・旅館にて、ホテル・スキー場・飲食店舗の運営を行い、新規企画開発・人材育成・業務改善・収益改革などに従事。現在は現場経験を生かした戦略設計、業務改善、組織マネジメント構築・運用支援、事業後継者育成、収益改革、衛生環境構築において幅広く活躍している。
SDGsビジネスモデル一覧へメソッド一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo