TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
コラム2022.05.02

SDGs時代のブランドストーリー設計:寺井 秀一

【図表】価値創造プロセス

〈財務資本〉製品を生産しサービスを提供する際に利用可能な資金。また、資金調達によって獲得、もしくは事業活動・投資によって生まれる資金〈製造資本〉製品の生産、サービス提供で利用できる製造物〈知的資本〉固有で所有する知識などの無形資産〈人的資本〉人々の能力、経験、イノベーションへの意欲、組織ガバナンス・フレームワーク、リスク管理アプローチ〈社会・関係資本〉コミュニティーやステークホルダーと情報を共有し、信頼を高める能力〈自然資本〉物・サービスを提供する全ての環境資源やプロセス
出所:IIRC「国際統合報告フレームワーク(2021年版)」を基にタナベ経営作成

 

 

自社の存在価値を伝えるパーパスブランディング

 

企業にとって「ブランド」とは顧客にとっての価値を定義し、長期的な信頼関係を構築するものである。つまり「顧客との約束」であり、顧客から選ばれ続けるためには持続的価値を創出しなければならない。

 

2015年9月の国連サミットにおいて、2030年までに世界の在るべき姿や持続可能な成長に向けた優先課題を17の目標として示したSDGsが採択された。日本は、2050年までに「カーボンニュートラル(脱炭素化)」実現という大きな目標を掲げている。

 

一方、新型コロナウイルス感染拡大により、消費の低迷、働き方の多様化、サプライチェーンの脆弱性といった課題が顕在化し、企業はこれまでの市場経済システムの中で別物と捉えがちだった「ビジネスと社会的使命の両立」をあらためて認識することになった。

 

このように社会や価値観が変容する中で、どのようにステークホルダーから選ばれるのか、企業は社会の中での「存在価値」を問われている。

 

自社の存在価値を明確に定義し、発信し続けることでステークホルダーの共感を集め、長期的なブランドへの信頼につなげる取り組みが「パーパスブランディング」である。パーパスとは、日本語で「目的」「意図」と訳される言葉であり、ここでは企業の「存在意義」を意味する。その本質は「WHY=なぜ自社は存在するのか」であり、企業の原点である。

 

企業にはさまざまな資本が託されており、これらの資本を変換および再配分することで価値創造するが、そのプロセスは企業ごとに異なる。パーパスプランディングとは、パーパスに導かれる価値創造のプロセス、言い換えれば企業固有の「ブランドストーリー」をステークホルダーに発信し、そのマインドシェア(心の占有率)を高めていく長期的活動である。

 

ブランドストーリーを整理するフレームワークとして、IIRC(国際統合報告評議会)が提唱する「価値創造プロセス」を紹介する。(【図表】)

 

価値創造に向けたビジネス全体のプロセスは、6つの資本群がインプットとしてビジネスモデルに投入され、事業活動とそのアウトプット(結果)を通じてアウトカム(成果)を産み出す。アウトカムには利益やブランド・顧客満足度の向上といったポジティブな要素と、環境問題への懸念を伴う社会・関係資本の減少、大気汚染などによる自然資本の減少といったネガティブな要素がある。

 

結果として、インプットされた資本群は変化し、再配分されて、新たな6つの資本群となる。その変化・余剰分が「新たに創造された価値」であり、それがまた新たなインプットとしてプロセスに取り込まれる。

 

6つの資本群とは、「財務資本」「製造資本」「知的資本」「人的資本」「社会・関係資本」「自然資本」である。これらの資本群はいずれも企業の発展を支える価値の蓄積にほかならない。6つの資本をどのように生かし、育てるかを真剣に考える企業こそが、これからの時代においてステークホルダーから選ばれる企業になる。

 

日本企業において、企業価値に占める無形資産の割合は、米国に比べて格段に低い。内閣府知的財産戦略推進事務局と経済産業省経済産業政策局産業資金課による「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」(2022年1月)によると、主要企業の時価総額に占める無形資産の割合は、米国が90%であるのに対し、日本は32%と約3分の1である。各企業固有のブランド力やノウハウ、組織風土といった無形資産や非財務資本への投資と有効活用が、SDGs時代の企業の持続的成長を実現する上で重要になっている。

 

 

ブランドストーリー設計の3ステップ

 

ソーシャルメディア全盛の時代に、企業が価値創造プロセスをステークホルダーに伝えるためのストーリー設計は、ファクト(事実)に比べて何倍も大きな力を持つ。まずは、前述した価値創造プロセスのフレームワークを活用し、自社の価値創造プロセスを財務・非財務の双方の視点で整理することが重要だ。

 

それができれば、次の3つのステップで、自社の考え方や持続的成長に向けた取り組みを適切に伝えるブランドストーリーをまとめていただきたい。

 

❶創業の精神に立ち返る

 

企業は創業して10年以内に約3割がつぶれ、30年以上生き残る会社は半数に満たないと言われている。まずは創業の精神に立ち返り、先人が創業した時の志や思い、経営理念などの考え方を再確認する。

 

❷成長過程・要因を再整理する

 

自社の成長の節目と自社を現在の姿にまで発展させた理由を押さえるとともに、過去の成長要因がこれからの成長要因につながるかどうかを検討し、「何を変えるべきか」「どのような段階にきているのか」を整理する。また、整理することを通して、自社固有の価値判断基準を明確にする。

 

❸存在価値を再定義する

 

企業の存在価値は、社会的役割を果たすことにある。すなわち、「世の中が求めていることと自社の持ち味の接点」である。自社の得意とする分野であっても、世の中が求めているものでなければ存在価値はない。「自社がなくなれば、世の中はどのように困るか」。ここに企業の原点がある。

 

ステークホルダーが納得するブランドストーリーをつくるには、SDGsに代表される社会課題の解決を機会と捉え、株主利益とともに世の中のニーズを満足させ、地域社会に貢献していく自社の企業姿勢を発信し続けなければならない。

 

 

 

 

 

Profile
寺井 秀一Shuichi Terai
小売専門チェーンにて店舗運営マネジメント、全社の管理業務などの幅広い経験を経て、2011年タナベ経営に入社。中堅企業の成長に向けた事業・営業戦略の策定、組織・経営システムの構築を中心にコンサルティングを展開している。特に、クライアントのミッション策定から非価格競争を実現するブランド戦略の構築・展開を得意とする。多様化する価値観に対応し、戦略を強力に推進する組織デザインと、社員の貢献価値を最大化させる取り組みでクライアントから高い信頼を得ている。
SDGsビジネスモデル一覧へコラム一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo