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【特集】

SDGsビジネスモデル

「社会性」と「経済性」の両立を目指すSDGsビジネスモデル。持続可能な開発のために解決すべき社会課題を本業に掛け合わせた戦略の構築から、重点テーマやKPI(重要業績評価指標)を明確化し、社内外へ浸透させるまでを一気通貫で設計する方法を探る。
メソッド2022.05.02

SDGs実装の成功ポイント:SDGs研究会

 

 

SDGs実装の定義

 

本稿では「SDGs実装の成功ポイント」について記載する。その前に「SDGs実装」の定義をあらためて整理したい。

 

実装とは、一般的に「組み込む」ことを意味している。コンサルタントである筆者が日頃、「経営に組み込まれている」と感じるのは、ステークホルダーの誰に聞いても同じ答えが返ってくるときである。創業の精神やトップが大切にしていること、自社の強みなど、深さの差はあれど誰からも同じ返答があるものは経営に組み込まれており、まさしく実装されている。だからこそ、顧客に正しく、魅力的に伝えるための戦略に活用できる。

 

従って「SDGsを実装する」とは、社内外の誰に対しても「○○○社のSDGsは△△△」と返ってくる状態と定義する。

 

 

SDGsはなぜ浸透しないのか

 

近頃SDGsの実装に取り組む企業が増えてきたことは言うまでもない。本誌でも多くの事例が取り上げられ、筆者の元にも日々相談が舞い込む。その悩みは活動が進むにつれて深くなっていると考える。

 

代表的な悩みの1つが、「SDGsを浸透させるにはどうすれば良いか」というものだ。この悩みを持つ企業は、SDGsの宣言までは作っていることが多い。ところが、作ったものの浸透が進まず、どうすれば良いか悩んでいるのである。本稿では浸透しない理由と具体的な対策を考え、SDGs実装の参考に供していきたい。

 

SDGsが浸透しない理由の1つ目は「理解度」である。SDGsへ取り組むに当たり、その勉強をする人は非常に少ないと筆者は感じている。Googleで調べ、Webセミナーを1回受けた程度であることが多いが、それでは勉強不足だ。SDGsに関しては「誰一人取り残さない」と題するだけあり、非常に多くのデータや資料が発信されている。中でも国連発行「Sustainable Development Report」や政府(SDGs推進本部)発行「SDGsアクションプラン2022」は、SDGsに関わる上で最低でも読んでいただきたい。

 

浸透しない理由の2つ目は、社内露出が少ないことである。SDGsに限らず、新商品や新しく導入したITツールなどを社内浸透させるためには、見て、聞いて、触って覚えてもらうのが常である。そのため単純ではあるが、目で見て、耳で聞いてもらう回数をいかに増やすかが鍵だ。

 

実際、露出を増やし浸透を図る手段として、自社コーポレートサイト上へのSDGs宣言掲載からスタートする企業は多く、その活動には賛同できる。しかしながら、例外があることを踏まえ、語弊を恐れずに言えば、社外へ向けて単純なPRをしても、それがニュースになるぐらいでなければ、社員は気付かないだろう。

 

実際、皆さんの会社の社員の方々は月に何回、自社のコーポレートサイトを見るだろうか。それに対して、シンプルな例だが、社内のあちらこちらにSDGsの活動内容と17ゴールのシールを貼るだけでも、自社がSDGsへ力を入れていることが伝わるはずだ。また、トップの発信に「SDGs」という言葉が何回入っているかも大きなポイントになる。

 

浸透しない理由の3つ目として、「わが社“らしさ”がない」場合がある。これは最も肝心なポイントだ。タナベ経営のSDGsビジネスモデル研究会に出講していただく全てのゲスト企業は、その会社が行うに相応しいSDGsの取り組みを掲げている。具体的に事業戦略とSDGsが結び付いている企業も多いが、それ以上に代表的な施策があることが特徴的である。そこに自社“らしさ”の詰まった活動が集約されている。ここでの判断基準は、「応援したいと思われるSDGs活動を実行できているか」と捉えていただきたい。

 

 

SDGs実装企業事例
加賀建設

 

SDGs実装企業事例として、石川県金沢市にある総合建設会社、加賀建設を紹介したい。理解度、社内露出、わが社“らしさ”の全てにおいて独自の取り組みを推進しており、参考になる部分は多いはずだ。

 

❶理解度

 

多くの企業で行われていることではあるが、経営者が自ら学び、発信する場所を設けることは、SDGsの理解度を高める最善策である。

 

同社では、代表取締役社長の鶴山雄一氏が2017年、組織力向上のためにSDGs委員会を設立。各部署からメンバーを募り、全社員で学ぶ体制をつくることで、鶴山氏のSDGsに対する思いがしっかりと伝わった。

 

また、社内浸透会議を立ち上げ、プレゼンテーションの発表とアンケートを実施。鶴山氏は「アンケートの結果が良くなるまで継続していく」とはっきり宣言している。

 

❷社内露出

 

同社では、先ほどの社内浸透会議を中心とする活動の見える化に力を注いでいる。具体的には、自社が手掛けるカフェの手洗いで、節水のお願い、「残さず食べてくれてありがとう」というお礼のPOP、それぞれのSDGs番号を貼り付けるなど、無意識のうちにSDGsを意識できる仕掛けを展開。こうした施策はナッジ理論※1とも合致する。

 

さらに、プロジェクトメンバーを中心に「SDGツリー」や「SASAフレーム」※2など、独自のデザインをメンバーと共に考案し、いずれも社内の目に留まる仕組みとして作り上げている。

 

❸わが社“らしさ”

 

加賀建設は「『誰もが活躍できる建設業』を目指して」と掲げ、SDGsの取り組みを推進している。実際、金沢港の河川工事においてICT活用を進め、消波ブロック据付工事では海中の可視化などに投資。これらが代表的な活動としてSDGsのミッションに組み込まれていることで、加賀建設“らしさ”が共感を呼び、社員の意識向上、社外の評価、採用へとつながっている。

 

以上が、理解度・社内露出・自社“らしさ”の3つの観点から見たSDGs実装のポイントである。

 

SDGsに取り組む多くの経営者から、「社員の意見が変わった」「前向きな意見が多く出てきた」といった言葉を聞いている。社会価値と経済価値の両立が求められる今、“現場発”の社会貢献を意識した建設的な意見は、経営者にとって金言となる。根気のいる活動ではあるが、SDGsの実装活動をどうか続けていただきたい。

 

 

※1…文章の文面や表示方法などを工夫することで、その人の心理に働きかけ、行動を行動科学的に変えていくこと。行動経済学の理論の1つ
※2…SDGsの統合的解決のための加賀建設独自の枠組み。「環境・社会・経済」の3つの領域、「ひと・企業・地域」の3つの主体・対象を重ね合わせ、複数の視座に立った取り組みを促すフレーム

 

 

 

 

 

 

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