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【特集】

マネジメントDX

海外では「ビジネスの成果に貢献する付加価値部門」と位置付けられるバックオフィス部門。だが、日本では「下支え部門」という認識が根強く残るのが現状だ。バックオフィス業務の無駄を洗い出し、最新のデジタル技術によって改善を施すためのシステム再構築メソッドを提言する。
メソッド2022.02.01

バックオフィスDXの真価とプロセス:ファンクションコンサルティング東京本部

 

一般的なDXとバックオフィスDXの違い

 

デジタル技術が日進月歩で進化する中、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞かない日がないほど、業界を問わず経営上の至上命題となっている。一方、DXという言葉が独り歩きし、正しく自社のDX戦略を判断できない企業が多いのも事実である。タイトルにある「バックオフィスDX」も、一般的なDXとは一線を画すものであることを留意いただきたい。

 

一般的なDXの定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」、2019年7月)である。

 

つまり、一般的なDXは「競争優位性の確立」がポイントとなるため、デジタル技術を駆使して業界のゲームチェンジャーとなるようなビジネスモデル・プロセスの変革や、既存ビジネスモデルにおいて競合と差別化できるほどの強みが求められている。

 

だが、バックオフィスDXの考え方は、企業の競争優位性のみに軸足を置くものではない。バックオフィスDXの対象であるバックオフィス部門の業務は間接業務が大半であることから、「働き方改革」や多様なワークスタイルへの対応という側面が強まるからである。

 

バックオフィスDXを考える際は、「新しい働き方へ対応するための必要最低条件を早急に満たす」「定型業務・非付加価値業務の削減から始める」「簡単にデジタル化できるところから始める」という、一般的なDXとは異なる着眼点が必要となる。

 

以上を踏まえると、バックオフィスDXとは、バックオフィス業務のデジタル化(デジタイゼーション※1・デジタライゼーション※2)が大半であり、DXという言葉に惑わされずに取り組むことが重要である。

 

 

全社DXビジョンの策定からDX戦略を進める

 

バックオフィスDXの大半は業務のデジタル化であるが、一方で本来のDXの定義に近い内容も包括されている。それは、「バックオフィス部門の付加価値の創出」だ。バックオフィス部門の役割が再定義され、業務プロセスの抜本的な変革が要請される場合、バックオフィスDXは単なる業務のデジタル化ではなく、本来のDXと同質の取り組みに近付く。

 

その場合、これまでの業務プロセスが大きく変更されるため、その他のデジタル業務改善施策が無駄となる可能性が高まる。

 

まずは、全社的なDXビジョン(DXを通じてどのような姿を実現したいのか)を明確にし、全体像を押さえた上で取り組むことが望ましい。また、バックオフィス部門の付加価値の創出が想定されていなくとも、バックオフィスDXの目的(ゴール)を明確にするという意味では、DXビジョンの策定は最初に取り組むべき事項である。

 

 

※1…アナログ業務をデジタル化し、業務効率化やコスト削減を図ること
※2…業務のデジタル化にとどまらず、デジタル技術を用いて新たな提供価値を生み出すこと

 

 

 

【図表】システム鳥瞰図の全体像

全社DXビジョンの策定からDX戦略を進める システム鳥瞰図の全体像

出所:タナベ経営作成

 

 

DXの全体像を理解するための現状認識

 

デジタル化の手段は細部も含めると多数存在するため、ここでは大部分で共通する「現状認識」のステップを紹介する。

 

バックオフィスDXに向けて自社の現状認識を進めるに当たり、実施すべき内容は次の3つである。ただ、これらはバックオフィスDXに限定されたものであり、本来のDXにおいてはこの限りではない。

 

1.「システム鳥瞰図」の作成
2.業務の棚卸し
3.ビジネスプロセスマップの作成

 

この中でも最重要である、システム鳥瞰図の作成について解説する。

 

システム鳥瞰図とは、【図表】の通り自社で導入されているシステムの全体像を示したものである。この図は、バックオフィス部門のみならず全社でDXを進める上で重要な可視化手法となるので、必ず作成していただきたい。

 

作成ステップとして、①自社で活用しているシステムと機能を洗い出す、②【図表】のように抜け漏れのないよう平面に並べる、③各システムにおける情報のインプット・アウトプットを矢印で表す、という3つの流れで進めることが重要だ。また、情報をつなぐ媒体が紙(一度紙で出力し、別システムに再度入力するなど)なのか、エクセルなどのデータファイルなのかも明確に示すと良い。

 

完成したシステム鳥瞰図を分析するための着眼点として、「不足しているシステム・機能はないか」「システム間の連携が不足していないか」「システム間の連携に作業負荷が掛かってないか(紙媒体での連携など)」などが挙げられる。

 

また、システムの運用上よくある課題として、次の3つのケースが存在する。システム鳥瞰図上では見えてこない問題も多いので、必ず現場でヒアリングを行い、運用実態まで把握することが重要だ。

 

❶補助簿の作成や属人的判断

 

システム鳥瞰図上ではエクセル上で連携されているように見えるが、実態は個別に補助簿を作っていたり、属人的な判断に基づく加工がなされている。

 

❷情報の二重管理

 

マネジメント層がシステムを活用できないため、別資料をエクセルで作成し、現場メンバーはシステムとエクセル双方へ情報を入力している。

 

❸情報の未活用

 

過去の慣習で情報収集は過剰に行われているが、その情報に基づいた経営判断がされていない。

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、企業のDXに向けた取り組みは加速した。その中でも、大半の業界で最もデジタル化が加速した業務領域はバックオフィス部門であろう。私はコンサルティングの現場でバックオフィスDXの支援を行う機会が多いが、そこでも「脱・紙文化」から「脱・エクセル管理」へと、求められる水準が変化していると感じる。

 

現段階で紙文化から脱却できていない企業は、健全な危機感を持ち、早急にデジタル化に着手していただきたい。

 

 

 

 

 

 

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