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【特集】

マネジメントDX

海外では「ビジネスの成果に貢献する付加価値部門」と位置付けられるバックオフィス部門。だが、日本では「下支え部門」という認識が根強く残るのが現状だ。バックオフィス業務の無駄を洗い出し、最新のデジタル技術によって改善を施すためのシステム再構築メソッドを提言する。
メソッド2022.02.01

DXによるIT投資計画とシステム導入の進め方:舟山 真登

基幹システムの見直しが急務

 

経済産業省は2018年9月に「DXレポート」を発表し、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みの重要性に言及した。資料の中で、DXが進まなければ「2025年以降の毎年、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警告している。背景には、既存のITシステムやデータがイノベーションや新しいビジネスモデル創出の足かせになっている、通称「2025年の崖」と言われる課題がある。

 

既存システムの見直しにおいて重要になるのが、将来のビジネスモデルの変化を見据えた販売管理や収益管理の仕組みである。既存ビジネスの収益性が落ちゆく中、「製造販売を行うメーカーのサブスクリプションモデル導入」などのビジネスモデル転換により収益向上を狙う企業は多い。

 

こうした動向に伴い、既存の基幹システムでは十分に採算性や収益性を可視化できない例が増えている。これは、既存ビジネスを前提とした売上管理単位や採算管理の仕組みが新たなビジネスモデルにマッチしないためである。企業は今後、基幹システムの見直しを行い、売り上げや予算、採算性の管理方法を新たに構築、変革する必要がある。

 

 

基幹システムの見直しにおける課題

 

1.マネジメント層に説明可能なIT投資評価の実施

 

基幹システムのリプレースは企業にとって多額の投資になる可能性が高い。そのため、IT投資効果のマネジメント層への適切な説明が重要になる。その際、IT投資の事前評価として「投資額」と「効果額」の予算を見積もる必要がある。

 

投資額(プロジェクトの総費用)は、ライセンス費や導入のための開発・設定費、サーバー費に代表されるイニシャルコスト、保守料や運用費に代表されるランニングコストを見積もることで算出される。

 

効果額はIT投資の目的によって異なるが、新たなビジネス展開を前提としたIT投資であれば「増加する売上高」、生産性向上を狙ったIT投資であれば「削減する労働時間と費用」を見積もる。

 

2.IT投資の目的に応じた構成割合

 

経営戦略とIT投資の目的を結び付け、企業の業績向上に寄与することが重要である。

 

IT投資テーマの区分として、①戦略関連、②情報関連、③業務関連、④インフラ関連があり、この4区分のIT投資テーマを最適な比率で組み合わせる必要がある。(【図表】)

 

【図表】IT投資ポートフォリオの概念

IT投資ポートフォリオの概念

出所:ピーター・ウェイル、マリアン・ブロードベント『ITポートフォリオ戦略論』(ダイヤモンド社)

 

新たなビジネス領域や新たなサービスを立案し、戦略関連のIT投資の割合を増やしていくことが、企業の競争力を維持・強化する。つまり、基幹システムリプレースの際に、どの程度、企業の戦略に関連したテーマを持って導入を行うかが重要なポイントになる。

 

 

 

IT投資の投資対効果の測定方法

 

1.IT投資額算定

 

❶投資額の試算方法

 

基幹システムのリプレースなどを実行するプロジェクトの場合、導入にかかるイニシャルコストとランニングコストを合算して投資額と考える。ランニングコストの見積もりは、システムを利用し終えるまでの年数分を合算することになる。

 

❷イニシャルコストの項目

 

基幹システムのリプレースなどのプロジェクトで見積もる必要があるイニシャルコストとして、ハードウエア・ソフトウエア・アプリケーション・ネットワーク構築の費用、移行コストなどが考えられる。特にアプリケーション構築などのサービス費用は、ベンダーの見積もりを上回る場合も多いため、バッファとして何割かのコスト増加を見込んでおく。

 

❸ランニングコストの項目

 

ランニングコストには、ハードウエアのリース料・保守料、ソフトウエア保守料、運用のための人件費・外注費、ネットワーク費用、設備費用などが含まれる。イニシャルコストと異なり、システムを使う全期間にわたって毎年発生する費用になるため、標準的な費用項目と見比べながら漏れがないかを慎重に検討し、システムの利用年数を決める。

 

2.投資効果の測定方法

 

IT投資効果の測定方法には、定量的に投資効果を測る財務的手法と、定性的に効果を検討する非財務的手法がある。IT投資の目的によって適合する評価の手法が異なり、また、組み合わせることで投資の意思決定に役立つケースもあるため、目的と関係者の性質に応じて測定手法を使い分け、組み合わせると良い。

 

❶ROI(投資利益率)による測定

 

財務的手法の中で最も一般的なのが、ROIを用いて投資対効果を算定する手法である。ROIが大きいほど投資対効果が大きいと評価する手法となる。新たなビジネスを立ち上げる際の戦略型IT投資が必要な場合に最も適合する評価手法と考えられる。

 

❷ABC(活動基準原価計算)による評価

 

日本では、業務効率化を目指したIT投資の割合が多く、そのような業務効率化の投資効果の測定手法として、ABCを用いた評価がある。業務を作業の単位まで分解し、時間とコストを算出した上で、IT投資によって作業にかかる時間とコストがいくら削減されるかを算出する。

 

 

企業価値・競争力向上に貢献するIT投資が不可欠

 

現在は新型コロナウイルス感染拡大などの影響もあり、ビジネス環境は速いスピードで変化している。また、先の見通せない状況で、企業はIT投資をシビアに評価するようになっている。これまでは定性的な説明のみで通っていたIT投資が、定量的な投資対効果の説明を一段と求められる傾向になってきているのである。一方、世の中のデジタル化は一層進んでおり、レガシー化した基幹システムの見直し・検討は増加傾向にある。

 

本稿で説明した考え方に基づき、企業価値の向上に貢献するようなIT投資計画を立案すれば、多くの利害関係者への説明責任を果たすことができる。また、計画に基づいて効果的なIT投資を実行することによって、先が見通せない環境においても自社の競争力を高めていくことが可能となる。

 

 

舟山 真登氏

 

Profile
舟山 真登Masato Funayama
2005年有限責任監査法人トーマツ入所。東証1部上場企業をはじめ、幅広い業種・規模の企業に対する法定監査業務、内部統制監査制度の導入支援業務、IFRS導入支援業務に従事。2017年より部長職。経理財務部門における生産性向上を実現するAccounting Tech®Solution事業を推進し、2020年Strategy &Operations事業部事業部長に就任。上場企業向けに、経営管理体制構築支援、経理財務部門における生産性向上の支援、PMIプロジェクトの支援、経理BPOサービスなど、多くの案件を手掛けるほか、専門誌への寄稿やセミナーでの講演実績多数。
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