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【特集】

事業承継 EXIT PLAN

親族内承継のほか、ホールディング経営、IPO(株式上場)、MBO(役員陣による株式買取)、M&A(株式売却/事業譲渡)といったスタイルで第三者へ承継し、自社の企業価値を次代につなぐ企業が増えている。持続的に成長する「出口戦略」としての事業承継メソッドを提言する。
メソッド2022.01.05

「攻め」の事業承継に必要な5つの出口戦略:鈴村 幸宏

 

5つの事業承継スタイル

次世代への承継に向けた資本戦略

 

❶親族内承継(オーナーシップ型資本承継)

 

親族内承継とは、資本と経営を同時に承継することである。議決権の集中と相続・株価対策が資本面の課題であるが、経営課題としては次世代組織体制の設計が大きい。資本面の課題については、「新・事業承継税制」の活用も視野に入れると良い。

 

平成30年度税制改正で創設された「新・事業承継税制(特例措置)」では、10年間の期間限定措置として、納税猶予対象が全株式、かつ相続税についても100%相当まで猶予限度額が拡大され、雇用確保要件も実質的に撤廃されるという大胆な見直しが実施された。(【図表3・4】)

 

 

【図表3】「新・事業承継税制」の改正ポイント

出所:中小企業庁ホームページを基にタナベ経営にて作成

 

 

【図表4】「新・事業承継税制」の主な適用要件

出所:クオリスWebサイト「新・事業承継税制がわかる!」を基にタナベ経営にて作成

 

 

この税制を活用するためには、2023年3月31日までに、「特例承継計画」を都道府県に提出し、確認を受ける必要がある。また、2027年12月31日までに、贈与または相続により自社株を承継する必要がある。

 

❷ホールディング型資本承継

 

親族内の後継者が不在、または後継者の経営能力に不安がある場合、資本と経営を分離する事業承継が、ホールディング経営である。財産・債務はオーナー家で代々継承しながら、事業は優秀な社員に任せることができる。

 

オーナーにとっては、グループの成長と株価高騰を切り離すことができるため、長期の税務プランによる安定的な株価政策を講じることができる。大企業のみならず、中堅・中小企業においても、組織再編税制やグループ法人税制の運用により、最小のキャッシュアウトでホールディングス化が可能になっており、財務・資本戦略面で大きな効果を得られる事例が増えている。

 

事業戦略面では、各事業の意思決定の迅速化と経営(業績)責任の明確化、M&A・新規事業の推進や企業再編の促進により、成長スピードを加速することができる。組織・人材戦略面では、優秀な役員や社員に、事業会社社長という経営者登用の機会を与えることで、組織が活性化されるというメリットがある。

 

このように、ホールディングス化には多くのメリットがあるが、グループの全体最適を推進するために、経営企画・マネジメント・ガバナンス・シェアードサービスなど、ホールディング会社と事業会社の機能分担を取り決め、求心力と遠心力を働かせたホールディング経営(グループ経営)を推進することが重要である。

 

❸IPO型資本承継

 

IPOは、社会的信用や従業員の士気・帰属意識の向上、人材獲得面での優位性などで大きなメリットがあるが、上場維持コストが高いなどのデメリットもある。IPOのポイントは、株式上場市場の選定、上場基準と自社の成長性のギャップを把握した上で、株式上場に向けたビジネスプランの明確化と中期経営計画の策定をすること、現状の内部管理体制などを精査し、上場レベルの社内体制を構築することである。

 

❹MBO型資本承継

 

親族に後継者がいないため、自社の有能な役員陣に会社を譲渡するのが、MBO(マネジメント・バイアウト)型資本承継である。役員陣が経営権を後継経営者を中心に保有することで経営が安定する。株式は時価での買い取りとなり、オーナー保有株式の現金化が可能となる。株式の散逸防止や社員の理解を得やすいなどのメリットがある。

 

また、上場企業が非上場化する際にも、ファンドなどと組んでMBOを実施する。非上場化により、所有と経営を一体化させることで、意思決定のスピードが上がる。上場企業はどうしても、毎期(毎四半期)の利益創出と株主への分配という短期的な業績を求められるが、抜本的に中長期的な視点で経営改革を実行するためにはMBOという手法が有効である。経営改革後、成長軌道に乗り、再上場を果たす企業も多い。

 

❺M&A型資本承継

 

後継者がいないため、社外の第三者に会社を譲渡する手段がM&A型資本承継である。「後継者不在」という事業承継問題の解決手段として、株式の全部または一部を売却、あるいは事業を譲渡する。大企業の傘下に入れば、経営や雇用は安定する。

 

また、オーナー保有株式は時価での買い取りとなるため、オーナーは株式の現金化が可能となる。最近は、米国のユニコーン企業※5がIPOよりもGAFA※6傘下に入ることを出口戦略としていることが多く、日本でも出口戦略の選択の1つとして定着化しつつある。

 

ベンチャー企業が目指す出口戦略は、IPOかM&Aである。M&Aによる出口戦略のメリットには、①売却するための条件がないこと(IPOは条件が厳しいが、M&Aは双方が合意すれば利益が出なくても良く、短期間でも可能)、②シナジー効果(販売シナジー、操業シナジー、投資シナジー、開発シナジーなど)が得られることの2つがある。相手が大企業であれば、このシナジー効果はより大きく、事業成長のための資金確保や従業員の雇用安定につながる。

 

一方、デメリットとして、①経営権がなくなること、②利益額が少なくなる可能性があることが挙げられる。IPOのメリットである、①経営権を確保できる、②IPO後の成長により株価上昇で利益が増えるということの裏返しである。いずれにしてもメリットとデメリットを深く考えた上で、IPOかM&Aの出口戦略を選択していただきたい。

 

最後に、5つの事業承継スタイル別のメリット・デメリットを【図表5】に示す。自社に最適な事業承継スタイルを選択する上で、参考にしていただきたい。

 

 

※5…企業評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場ベンチャー企業
※6…米国主要IT企業であるGoogle、Amazon、Facebook、Appleの総称

 

 

【図表5】5つの事業承継スタイル別メリット・デメリット

出所:タナベ経営にて作成

 

 

 

 

事業承継コンサルティング

これまで数々の事業承継をサポートしてきた実績をもとに、貴社のビジョンを実現する最適な事業承継戦略を描き、ワンストップで対応します。

 

 

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Profile
鈴村 幸宏Yukihiro Suzumura
メガバンクにて融資・外為・デリバティブ等法人担当を経て、2005年タナベ経営入社。2020年よりファンクションコンサルティング東京本部長兼戦略CFO研究会リーダー。経営戦略・収益戦略を中心に幅広いコンサルティングを展開。企業を赤字体質から黒字体質にV字回復させる収益構造改革、ホールディングス化とグループ経営推進支援、ファイナンス視点による企業価値向上、投資判断、M&A支援の実績多数。
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