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【特集】

事業承継 EXIT PLAN

親族内承継のほか、ホールディング経営、IPO(株式上場)、MBO(役員陣による株式買取)、M&A(株式売却/事業譲渡)といったスタイルで第三者へ承継し、自社の企業価値を次代につなぐ企業が増えている。持続的に成長する「出口戦略」としての事業承継メソッドを提言する。
メソッド2022.01.05

「攻め」の事業承継に必要な5つの出口戦略:鈴村 幸宏

 

起業する場合、誰しもまずは事業目的を設定し、その事業目的の達成に向けた道筋を考えていく。事業目的の達成なくしては、会社の発展も、出口戦略もあり得ないからである。

 

一方で、最近では事業目的の達成は前提として捉え、その先にある「IPO(株式上場)」「M&A」「事業承継」といった出口戦略を見据え、事業の立ち上げや事業展開を行う起業家も増えている。これは、学生が起業したり、企業の一部がスピンアウトして事業承継や起業をしたり、クラウドファンディングで出資を募って起業したりするなど、若い起業家が増え、経営に対する意識が変化していることが要因と考えられる。

 

起業した会社を最短距離で軌道に乗せるためには、出口戦略を踏まえた組織の構築と事業展開を進める必要がある。なお、創業期は、金融機関からの資金調達が難しいので、ベンチャーキャピタルなど、資本提携による資金調達を検討することが多い。

 

企業や事業が成長期に入った段階で、成長を加速するために、IPOを目指して社内や社外の体制を整えながら事業を成長させる、M&Aを活用して事業規模を拡大させる、事業の数を増やしながら事業ポートフォリオ戦略により企業規模を拡大させるといった具合に、成長加速を意識しながら事業を展開することが重要だ。

 

成熟期においては、不採算事業の撤退など既存事業の見直しと新規事業開発による事業ポートフォリオの組み替えで、企業としての衰退(企業価値の減少)を食い止める打ち手が必要である。

 

事業承継期においては、社員や取引先や金融機関などのステークホルダーに対する責任という意味からも、企業価値を目減りさせることなく、後継者へ会社を引き継ぐことが重要である。事業承継における出口戦略には、大きく分けて、①親族内承継、②役員や従業員などへの承継、③M&Aなどによる第三者への承継といった選択肢があることは、前述の通りである。

 

【図表2】は、出口戦略の方策と経営者の経営権・資金取得の関係を表したポジショニングマップである。縦軸は「従前の経営者や経営陣が経営権を保持できるか」を示し、横軸は「従前の経営者や経営陣が出口戦略によって資金を取得できるか」を示す。

 

 

【図表2】出口戦略の方策と経営者の経営権・資金取得の関係

出所:タナベ経営にて作成

 

 

IPOは、経営者が代わる必要性が少なく、かつ、オーナー兼経営者がIPOによって資金を得られる可能性が高いために、会社を継続して経営していきたいという経営者にとっては、一番メリットがある方法である。

 

次に、M&Aを選択する場合、オーナー兼経営者は、会社を売却することで対価を得る場合が多い。一方、新たなオーナーから引き続き経営を委任されない限りは、経営者としての地位を退かざるを得ない。

 

MBO※4は、オーナー兼経営者にとって会社売却の対価を得られる場合が多い一方で、経営者としての地位は退くことになるケースが多い。オーナー以外の経営者・後継者は、会社買収資金を支出し、経営者として経営権を保持するという関係になる。

 

親族内承継は、オーナー兼経営者が資金を得られることもあるが、多くの場合、贈与や相続などを利用して行われるため、オーナー兼経営者は、従前に保有していた経営権を喪失し、かつ資金取得はないケースが多い方策である。

 

なお、「IPO」「M&A」「MBO」「親族内承継」にはさまざまな段階があり、これらを併用することもあるので、一概に言い切ることはできない。とはいえ、一般的な傾向として「経営権の保持」と「資金獲得」を軸にしたポジショニングで、出口戦略を検討すると整理しやすい。

 

 

※4  役員陣が自社の株式や事業を買収して独立すること

 

 

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Profile
鈴村 幸宏Yukihiro Suzumura
メガバンクにて融資・外為・デリバティブ等法人担当を経て、2005年タナベ経営入社。2020年よりファンクションコンサルティング東京本部長兼戦略CFO研究会リーダー。経営戦略・収益戦略を中心に幅広いコンサルティングを展開。企業を赤字体質から黒字体質にV字回復させる収益構造改革、ホールディングス化とグループ経営推進支援、ファイナンス視点による企業価値向上、投資判断、M&A支援の実績多数。
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