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【特集】

事業承継 EXIT PLAN

親族内承継のほか、ホールディング経営、IPO(株式上場)、MBO(役員陣による株式買取)、M&A(株式売却/事業譲渡)といったスタイルで第三者へ承継し、自社の企業価値を次代につなぐ企業が増えている。持続的に成長する「出口戦略」としての事業承継メソッドを提言する。
メソッド2022.01.05

「攻め」の事業承継に必要な5つの出口戦略:鈴村 幸宏

増加する「親族外・第三者」への事業承継

 

帝国データバンク「全国社長年齢分析」※1によれば、2020年の社長の平均年齢は60.1歳。1990年の調査開始以来、初めて60歳を超え、過去最高を更新した。

 

上場企業社長の平均年齢は58.7歳で、「60代」が43.3%を占める。上場・非上場企業を合わせると、「70代以上」が24.7%で、全体の約4分の1になる。とりわけ、非上場企業において社長の高齢化が顕著であり、事業承継問題は深刻な状況にある。

 

経営者の引退年齢は、60歳代後半から70歳であり、多くの経営者が引退年齢に差し掛かっている。中小企業庁※2によると、2025年までに6割以上(約245万人)の中小企業・小規模事業者の経営者が70歳を超え、そのうち127万人(日本企業全体の3分の1)の後継者が未定である。

 

また、帝国データバンクの調査から、現経営者の先代経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2020年の事業承継は「同族承継」が34.2%。2018年から8.5ポイント低下しており、急減傾向にある。一方、血縁関係のない役員や従業員などを登用した「内部昇格」は34.1%となり、同族承継のわずか0.1ポイント差に迫った。社外の第三者が就任した「外部招聘」は8.3%で、同じく割合が高まっている。ここから、事業承継の傾向として「親族内承継」から「親族外・第三者承継」へシフトしてきていることが分かる※3

 

さらに、昨今は事業承継M&Aの相談も増えている。難しい経営環境の中、後継者不在によるM&A(譲渡)が増加していると考えられる。大企業(安定企業)の傘下に入り、経営と雇用を安定させることは、事業継続に有効な選択肢の1つである。

 

事業承継と言えば、経営権を創業家が代々継承するスタイルが多かった。ところが近年は、前述したように、社内から内部昇格という形で役員や従業員を社長に登用したり、外部から第三者を招聘したりする「所有と経営の分離」スタイルが増加している。

 

多様化する事業承継スタイルの中で、自社に最適なスタイルを選択するポイントの1つは、「所有と経営」の関係をどうするかである。所有も経営も、①親族、②役員(従業員)、③第三者の順で納得度が高まるが、さまざまな理由で所有と経営を分離するスタイルが増えている。

 

※1…帝国データバンク「全国社長年齢分析」(2021年2月5日)
※2…中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
※3…帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2020年)」(2020年11月)

 

 

 

企業(事業)のライフサイクルによる選択肢

 

企業や事業の成長ステージは、①創業期、②成長期(躍進期)、③成熟期(安定期)、④衰退期(事業承継期)、という段階を経て進んでいく。その各過程の中で「転換期・危機時期」がやってくる。そのため、企業や事業のライフサイクルの中で、常にどのような「出口戦略(EXIT)」を講じるかを考える必要がある。企業(事業)のライフサイクルで考える際には、企業の成長ステージに合わせて取るべき選択肢(出口戦略)を変えていく必要がある。(【図表1】)

 

 

【図表1】企業(事業)のライフサイクルに合わせた出口戦略

出所:タナベ経営にて作成

 

 

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Profile
鈴村 幸宏Yukihiro Suzumura
メガバンクにて融資・外為・デリバティブ等法人担当を経て、2005年タナベ経営入社。2020年よりファンクションコンサルティング東京本部長兼戦略CFO研究会リーダー。経営戦略・収益戦略を中心に幅広いコンサルティングを展開。企業を赤字体質から黒字体質にV字回復させる収益構造改革、ホールディングス化とグループ経営推進支援、ファイナンス視点による企業価値向上、投資判断、M&A支援の実績多数。
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