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【特集】

経営をつなぐM&A

買収によって新規事業を始める際に必要となる時間を短縮できることから、「時間を買う戦略」とも言われるM&A(企業の合併・買収)。アフターコロナを見据えた経営戦略・事業戦略に基づいた、「買って終わり」「売って終わり」にしないM&A 戦略の設計メソッドを提言する。
コラム2021.12.01

PMIでM&Aによる買収効果を最大化する:丹尾 渉

PMIの進め方を自社で設計する

M&Aで重要なことは、「M&Aによって目的が達成できるか」である。買収目的はさまざまだが、M&Aは何らかのシナジー(相乗効果)を期待して実施される。しかし、シナジーは買収が完了したからといって、自然に生まれるものではない。シナジーを生むためのアクションが必要となる。

 

「Post Merger Integration」(以降、PMI)は、そのシナジーを生むための経営統合プロセスだ。PMIに決まった形式はなく、期間もない。しかし、M&A実施後のPMIの進め方を自社で型決めしておくことは、M&A関連のプロジェクトをスタートする上で有効である。

 

PMIを進める最適なタイミングは、最終契約締結後ではない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「【M&A実態調査】ポストコロナ時代を見据えたM&A戦略とは」(2021年2月)によると、国内M&Aの成果とPMIの検討開始時期との関係を分析したところ、「期待を上回る成果が得られている」「ほぼ期待どおりの成果が得られている」と回答した企業の約6割が、PMIの検討開始時期について「基本合意を締結するよりも前」「デューデリジェンス実施期間中」と回答している。

 

譲受側企業の経営者は、買収交渉を始めた時点で買収後のイメージを持っている場合が多い(逆に、イメージが持てていない場合はM&A戦略が明確になっていない可能性がある)。そのため、買収後のイメージに具体性を持たせるために、買収調査時点でPMIを見据えた動きをする必要がある。買収調査時に、統合対象となる企業の部門・業務などに関する調査を盛り込み、最終契約締結後、すぐに統合業務を開始できるようにするのだ。統合プロジェクトを立ち上げるための準備は、最終契約締結日以前から始まっているのである。

 

前提として、PMIの対象となる企業の規模感によって、作業工程・内容は異なる。小規模企業に対しては、大掛かりなPMIは必要ない。小規模企業は経営資源が限られているため、PMIによって生まれる業務で通常業務が回らなくなる可能性があるからだ。それでもPMIを実施する場合は、業務内容の絞り込みが必要である。

 

中堅・中小企業におけるPMIの実行手順は、小規模企業より少し大掛かりだ。PMIプロジェクトを立ち上げる場合、まず窓口となる「Project Management Office」(以降、PMO)を設置し、プロジェクトを管理するのが一般的である。

 

例えば、複数の項目で統合作業を実施する場合は「分科会形式」を採用し、各分科会の進捗確認や報告会実施などの段取りはPMOがコントロールする(【図表1】)。タナベ経営でPMI支援を行う場合、譲渡・譲受企業の双方からメンバーを選出してPMOを設置し、そこにタナベ経営のコンサルタントも加わる。

 

【図表1】PMOの役割

出所:タナベ経営作成

 

 

譲渡側企業の現状認識と進捗共有の徹底

PMIは、譲渡側企業の現状認識から始めることが肝要だ。買収調査時点で実施項目の目星を付けておくことの重要性は前述の通りだが、買収調査は限られた期間で実施するため、全てを調べることはできない。また、クロージング(M&Aにおいて経営権の移転を完了させる最終的な手続き)後に初めて把握できることもあるためである。

 

現状認識を行う際は、事業内容だけを調べるのではなく、経理・財務・人材・法務・ITなどさまざまな視点で把握することが重要だ。経営・業務面に分けて対象企業を知ることで、「どこを、どのくらい変更するか」が見えてくる。

 

また、PMIの実施内容に合わせて現状認識を進める範囲を調整する。中でも、人材に関する分野は重点項目であり、譲渡側企業が小規模であれば、全社員と面談することもある。社員の考え方やキーマンを把握するためだ。

 

現状認識が終わり次第、いよいよ本題に入っていく。対象企業の事業計画を立て、ゴールを明確にする作業(経営のPMI)と、同時並行で業務内容の統合(業務のPMI)を行う。

 

経営のPMIは、シナジーを織り込んだ中期経営計画(ゴール)を新たに設定する。策定の過程でKPI(重要業績評価指標)を設定し、KPI達成に向けて双方がチームとなりPDCAを回すことが重要だ。(【図表2】)

 

 

【図表2】経営に関するPMIの流れ

出所:タナベ経営作成

 

 

一方、業務のPMIは、業務効率を上げ、生産性を向上させることが重要である。重複する業務は可能な限り削減し、使用する契約書のフォーマットや帳票、管理会計の仕組みなどは、譲受側企業に合わせていく。

 

だが、全ての業務を合わせる必要はない。目的は業務内容の統一ではなく、「業務効率の改善」であるからだ。譲渡側企業の管理体制が優れている場合、譲受側企業が合わせる手もある。この場合、「完全統合を目指す」のか、「一部を合わせる」のか、「統合しない」のかを検討する。

 

PMIに関する書籍の多くは、「最初の100日間で統合方針を定め、優先順位の高い項目から実施する」ことを推奨している。これはルールというわけではなく、M&Aの最終契約締結後から時間が経つほどM&Aの熱気が冷め、通常業務が増えてしまうからだ。M&Aによる買収成果を短期間で最大化させることの重要性を説いたものと言える。

 

しかし、100日間で実行できることは限られている。その後も、PMIプロジェクトで決まった決定事項を実施していく必要がある。PMIでは、譲受・譲渡側企業ともにモニタリングと定期的な進捗・成果の共有の場をつくることが有効である。シナジーを測定し、絶えずM&Aの効果を検証していくことで、そのM&Aが成功か失敗かが見えてくるだろう。

 

 

 

 

「成長M&A」実践研究会

タナベ経営の研究会とは、同じ顧客課題の解決に取り組む仲間とともに、視察先企業や最新の企業事例を通じて、ビジネスモデルやマネジメント手法を研究するプラットホームです。

Profile
丹尾 渉Wataru Nio
タナベ経営入社後、収益・財務構造改革を中心に、資本政策や組織再編コンサルティングなどに従事。2017年からM&Aアライアンスコンサルティング本部の立ち上げに参画。M&A戦略構築からアドバイザリー、PMIまでタナベ経営のM&Aメソッドの開発に携わり、3年間で延べ50件以上のM&Aコンサルティングに携わっている。
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