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【特集】

「戦略人事」へのアプローチ

多様な働き方を実現しつつ成果を出せるか。コロナ禍をきっかけに、この命題が企業の存続を左右する経営課題となった。未来を創る人材を確保・育成する「戦略人事」とは。
メソッド2021.10.29

事業と連動した人事戦略を構築する:HRコンサルティング東京本部

 

育成計画の策定

 

人材の育成に関しては、前述の採用・配置をベースに考え方をシフトしていく。これまでは、「幹部人材を育てるための育成計画」という視点が主流であった。しかし、それぞれの求める人材要件によって育成の仕組みは変革が必要となる。

 

例えば、新卒社員や幹部候補社員に関しては、これまで通りの階層別教育を主体としたゼネラリスト育成のための教育が主体となってくる。

 

注意したいのは、離職に対する考え方だ。大卒は入社3年で3割が離職すると言われるが、離職に対してはシビアに考えるべきである。そもそも新卒採用はメンバーシップ型の考え方であり、将来を期待して採用しているはずだ。そのための教育を用意しているにもかかわらず、育ってきたタイミングで離職してしまい、10年目には1人も残らないという状況では非効率である。人事戦略として、採用段階からゼネラリストとしてのマインドセットを形成していく必要がある。

 

一方、オペレーション人材やスペシャリスト人材の育成に関しては、これまでのゼネラリスト育成の思想から転換する必要がある。重要となるのはOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)の仕組みと機会の創出である。

 

❶OJTの仕組みを見直す

 

事業に貢献できる人材を早期に育成するためには、OJTを通じて仕事のベースを構築することが重要である。なお、OJTは新卒社員だけではなく、中途採用者にも必要となる。どんなに優秀な人材でも、入社直後から活躍することはまれであり、入社時のサポートがあった方が活躍までのスピードは短縮できるからだ。

 

OJTは配属先によってレベルや質のばらつきがあり、「当たり」「外れ」が生じてしまうことがある。そのため、OJTトレーナーのトレーニングとともに、マニュアル化の推進が必要となる。動画コンテンツを用いて指導することも可能だが、それに加えて対面式の対話がポイントになる。入社してから1週目、2週目、4週目、8週目にそれぞれ到達すべきゴールとその進捗を、直接的なコミュニケーションで確認し、課題を解消していくのである。

 

個人の自律が求められる時代だからこそ、考え方や意識を合わせるための対話がより重要視される。そのため、マニュアル化とともに、直接的なコミュニケーションを仕組みとして設けることにより「当たり」「外れ」なく人材を育成することがスタートとなる。

 

❷機会を創出する

 

ある程度の経験を積み、業務においてリーダーシップを発揮できるようになってきたタイミングで、新たな機会を設けてこれまでにない視点を養うことが必要となる。重要なのは「任される経験」である。全社横断プロジェクト型の推進リーダー、専門的な組織の統括、社外とのアライアンス・連携案件の主担当など、能力発揮を期待する分野における新たな機会の創出が人材成長につながる。

 

近年は、大手企業の人材を1年間の期限付きでスタートアップ企業に派遣するようなサービスもある。スタートアップ企業におけるスピード感のある業務遂行や、1人当たりの裁量が大きく次々に任される経験を、自社に生かしていくという考え方である。

 

社内においては、戦略的な配置転換を通じて経験を積んでもらうパターンが考えられる。将来の幹部候補に他部署の経験をさせるという育成手法があるが、専門人材にも同様に異動を通じて視点を広げてもらえば、さらなる専門性の発揮につながる。また、異動以外にも会議やプロジェクトなどの仕組みを通じて成長機会を設ける事例として、サイバーエージェント「あした会議」(サイバーエージェント様の記事にて掲載)を参考にしていただきたい。

 

 

 

【図表2】3つの等級制度の違い

出所:タナベ経営作成

 

 

人事制度の見直し

 

こうした考え方を等級制度に落とし込み、評価することで、一気通貫した納得性のある人事制度が実現できる。前述の人材ポートフォリオを用いて考えた場合、自社が何を重視し、どれだけの処遇をすることができるのか、あらためて検討する必要がある。

 

そのために必要なのが、【図表2】の通り、職能型・職務型・役割型の等級制度のどれが自社にマッチするかを考えることである。

 

近年の議論では、年功序列につながる職能型は批判されがちであるが、ビジネスモデルによっては有効に機能する仕組みである。例えば、定型業務が中心で長期的に顧客との関係構築をすることが安定的に収益を生み出す事業の場合、職能型はマッチしやすい。

 

また、職務を中心としたいわゆるジョブ型の考え方は、前述の通り欧米型のマネジメントであればマッチしやすいが、日本型のメンバーシップ型のマネジメントが主体となっている場合や、現在の日本の法制度下では難しい側面もみられる。そのため、近年では役割等級制度の導入を進める企業も多い。さらに、管理職にはジョブ型や役割等級制度を設け、一般職は職能等級制度とするハイブリッドの方式もみられる。【図表2】を参考に、自社にマッチする仕組みを考えていただきたい。

 

これまで見てきた通り、戦略人事の考え方のベースには経営理念・ミッションのほかに「事業を実現する」視点が欠かせない。そしてあくまでも、目先の事業をサポートするという短期的な視点ではなく、長期的な視点から人事を考えなければ成功はしない。大きな転換期である今、戦略的な人事への転換が必要なのである。

 

 

人事制度再構築コンサルティング

企業の未来をつくる要となる人事制度。タナベ経営では社会情勢や企業理念、ビジョンに沿うよう、人事制度全体をデザインし、自社らしさや強みを強化します。

 

 

 

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