テクノロジービジョンの構想で組織を変革する
森重 裕彰
2021年9月号
【図表1】「Techno Driven」の技術課題解決フレームワーク

※VR、AR、MRなどの先端技術の総称
出所:タナベ経営作成
コロナショックにより、猫も杓子もDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。数年前まで多くの企業の認識は、「DXができれば競合他社との差別化につながる」程度だった。しかし、今となっては、テクノロジーを取り入れていないことが「選ばれない企業」の原因になり得るほどに、デジタル化の重要度は高まっている。本稿では、長期視点でのDXの考え方や、取り組む際の着眼点について解説していく。
「DXは手段であって、目的になってはいけない」という言葉を聞くが、その通りである。どのような技術にせよ、課題を解決するための手段でしかない。だが、課題が見つかってから、手段としてのテクノロジーを考えるのでは遅い。取り組みの着手が遅くなることで、課題解決の領域が狭くなってしまうからだ。
私は、「Techno Driven(テクノドリブン)」という考え方を提唱している。テクノロジーを起点として、業界や自社の抱える課題をどのように解決できるかを検討する技術解決思考法だ。(【図表1】)
Techno Drivenを用いることで、1つのテクノロジーで複数の課題を解決することができる。例えば、高品質・低価格の衣料品を提供するユニクロやジーユーなどを傘下に持つファーストリテイリングでは、ここ2~3年で実店舗にセルフレジを導入し、「商品付加価値の上がらないレジ業務」の無人化に取り組んでいる。その裏側にあるのは、「RFID」という自動認識技術だ。RFIDとは、電波を用いて商品のタグデータを非接触で読み書きするシステムで、スキャナーをかざすだけで複数のタグを一括で読み取ることができる。
また同社では、このRFIDを用いて「棚卸作業の時間短縮」「倉庫の自動化」という2つの課題も解決している。このように1つの技術で複数の課題を解決することが、Techno Drivenを用いた課題解決フローの特長である。