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【特集】

未来戦略

未来の不確実性が高まる中、企業には、外部環境を精緻に分析・予測することよりも、自社の意志でどのような未来を切り開くのかを明確に示すことが求められている。「前期の踏襲」をやめ、成長の限界を突破するための長期ビジョン・中期経営計画構築メソッドを提言する。
メソッド2021.09.01

中長期ビジョンのシナリオ設計と数値目標設定のポイント:石丸 隆太

シナリオ・プランニングで中長期ビジョンを考える

 

「ビジョン」とは、組織で共有する企業の将来像(ありたい姿)だ。VUCA※1の時代において、事業を通じて「未来に対して何をもたらすべきなのか」を考え、それをビジョンとして掲げることが、サステナブルな未来経営モデルの実現に向けた第一歩となる。

 

中長期ビジョンを考えていく上で必要なのは、外部環境の変化を長期スパンで捉えることである。現状を捉えるには、PEST分析※2やファイブフォース分析※3、SWOT分析※4などのフレームワークで事足りるが、未来が予測困難である現状を踏まえると、十分とは言えない。今後は、現状を捉えた上で将来のシナリオを複数描き、その中で「自社は複数のシナリオに対してどうあるべきなのか」を明確にする「シナリオ・プランニング」が必要になる。

 

 

【図表】シナリオ・プランニングのフレームワーク

シナリオ・プランニングのフレームワーク

出所:タナベ経営作成

 

 

将来予測は、あくまで過去と現在の延長線上にある未来を考えるものだ。一方、シナリオ・プランニングは、インパクトの大きさ(事業影響度)と不確実性の高さ(実現性)の2軸を【図表】のようにまとめた上で、重要と思われる変化要因を特定して複数のシナリオを作成し、自社がどう対応していくかを導き出すフレームワークである。複数のシナリオをつくっておくことにより、予測できないような環境変化へも対応できる可能性を高められる。

 

加えて、どのシナリオに対しても持っていなければならない視点は、「未来適応型」と「未来創造型」の2つである。未来適応型は、どのようなシナリオにも対応できる戦略・組織体制を構築する視点。未来創造型は、より素晴らしい未来を導き出す視点である。

 

 

※1…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉で、将来を予測しづらい時代特性を意味する

※2…政治・経済・社会・技術の4つの観点から外部環境を分析する手法

※3…5つの観点(競合他社、新規参入企業、代替品、売り手の交渉力、買い手の交渉力)から業界の収益性を分析するための手法

※4…自社の社内リソースと自社を取り巻く外部要因を照らし合わせて分析し、今後挑戦できる市場領域や解決すべき事業課題を見つける手法

 

 

 

KPI・KGIを設定し社員一人一人の行動まで落とし込む

 

中長期ビジョンを策定していく上では、「ビジョンを実現した場合、自社は定量的にどうなっているか」を考えることも重要だ。そのために、まずはKGI(経営目標達成指標)を設定すべきである。

 

数値目標はマラソンのゴールテープのようなもので、数値目標なきビジョンに社員共通の価値観は生まれない。数値基準は、売り上げ・利益はもちろんのこと、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)、ROIC(投下資本利益率)、EBITDA(営業利益+減価償却費)など、自社が経営上で重視している指標に絞って設定いただきたい。

 

また、ビジョンをマネジメントしていく上では、KPI(重要業績評価指標)も大切な指標になる。KPIはKGIを達成するための過程を測定する指標であり、例えば、「顧客満足度〇%」「リピート購入率〇%」といった形で、業績を生み出す過程を定量に落とし込んでいく。KPI設定におけるポイントは次の3つだ。

 

①成功要因を押さえる

 

1つ目は、KGIを達成するためのCSF(重要成功要因)が何かを押さえることだ。

 

②目標を絞る

 

2つ目は、目標を絞ってシンプルにすることである。あれやこれやと目標を設定しても社員は消化しきれない。結果、何から始めれば良いか分からず、消化不良で終わってしまう。

 

③進捗管理

 

3つ目は、KPIを適時確認できる体制をつくることだ。管理できない目標は進捗も見ることができず、軌道修正ができなくなる。

 

 

 

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Profile
石丸 隆太Ryuta Ishimaru
タナベ経営 経営コンサルティング本部ドメインコンサルティング東京本部 部長。金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベ経営に入社。クライアントの成長に向け、地に足の着いた熱い指導で、「着実に成果を生み出す」ことを信条にコンサルティング展開。営業・財務戦略立案~実行を中心に、「決めたことをやり切る」強い企業づくりを推進している。
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