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未来戦略

未来の不確実性が高まる中、企業には、外部環境を精緻に分析・予測することよりも、自社の意志でどのような未来を切り開くのかを明確に示すことが求められている。「前期の踏襲」をやめ、成長の限界を突破するための長期ビジョン・中期経営計画構築メソッドを提言する。
メソッド2021.09.01

未来ビジョンを実現へ導く中長期経営計画「ESFアプローチ」:村上 幸一

長期ビジョンと中期経営計画策定のメソッド

 

 

長期ビジョン策定メソッド

 

長期ビジョンと中期経営計画の策定方法について解説したい(【図表2】)。まずは未来への方向を示す長期ビジョンについて見ていこう。

 

【図表2】長期ビジョン×中期経営計画策定

出所:タナベ経営作成

 

 

長期ビジョンは未来における自社のありたい姿であり、社会における役割、業界でのポジション、それに伴う数値目標と事業進化の方向性、組織や人に対するポリシーなどを包含する内容となる。近年ではこれにESGやSDGsの要素も盛り込まれていることが一般的になっている。日本のSDGs の原則に、「普遍性」や「包摂性」が明記されているため、企業の未来ビジョンや経済活動との親和性も高いことがその要因である。

 

長期ビジョン策定方法は、大きく3つある。1つは企業のトップである社長が、自身の思いを独断でビジョンとして明示する“ワントップアプローチ”だ。予測できない外部環境や現在の組織能力の調査や分析に重きを置かず、まずは“意思ありき”で他のメンバーと合議することなく決定する。そのプロセスとして、社長が一人で考えることもあれば、コンサルタントをエグゼクティブコーチングのようなスタイルで活用しながら形作っていくこともある。

 

2つ目が“エグゼクティブ・ディスカッション・スタイル”である。トップである社長をリーダーとし、現在の役員・経営幹部メンバーが討議を重ねながら練り上げていく方法だ。この場合、トップは自身が持つビジョンの核のみを抽象的に示し、他の経営幹部メンバーはその核を具体的な内容へ形作っていく。

 

そして、最後3つ目が“ミドルアップ・トップディシジョン・スタイル”である。運営の仕方はエグゼクティブ・ディスカッション・スタイルと同様だが、大きく異なるのは中心となる参画メンバーである。現在の役員・経営幹部が主体ではなく、その下のレイヤーの幹部メンバーが主体となる。

 

その理由はシンプルだ。10年後のビジョンに到達する時機に役員・経営幹部として会社を担う世代こそが、そのビジョンを描くべきだということである。もちろん会社によって異なるが、現在の役員陣が10年後も役員として企業を経営しているケースは極めて少ないだろう。だからこそ未来の経営メンバーにその意思を託しながらビジョナリーな視点を持ってもらおうという目的がある。ただ、現在のポジションでは高い視座が持てないことが多いため、内容を精査しながら最終的にはトップメンバーが意思決定するという方式となる。

 

 

中期経営計画策定メソッド

 

中期経営計画の策定方法は長期ビジョンの策定方法と似ている点もあるが、根本的には異なる。まず、長期ビジョンであるワントップアプローチは推奨できない。ビジョンと異なり、中期経営計画は事業計画、経営改善の具体的な内容やスケジュールにまで落とし込んでいくため、外部環境や内部環境・組織能力の分析と把握は必須となる。この現状認識がしっかりとできていないと、中期経営計画が実現不能、実行不可能なものになってしまう。そのため、社長としてトップ方針を出した上で、策定は各事業部や部門で行うことが重要になる。

 

ここで各事業部や部門からの計画が、前年からの積み上げ式になってしまうことを防ぐためにも、長期ビジョンが必要になる。ビジョンを実現するための中期経営計画でなければならない。

 

中期経営計画の策定プロセスは、フェーズIの現状認識からフェーズIIの戦略設計・計画構築が中核となり、その後、フェーズⅢのアクションプランへ落とし込まれていくフローとなる。プロセスは基本的に同じだが、策定するアプローチは大きく3つある。

 

1つ目が、経営企画部などが主幹となり、各事業部・部門でプロジェクトチームを編成して推進していく“チームプロジェクト・スタイル”だ。2つ目は、現在の役員・経営幹部メンバーが経営会議や戦略会議などトップレイヤーの会議を通じて意思決定していく“エグゼクティブ・ストラテジー・カンファレンス”。最後の3つ目が、次世代の役員・経営幹部候補者メンバーが、戦略や経営の知識をインプットしながら研修形式で中期経営計画を完成させていく“ジュニアボード・メソッド”である。

 

長期ビジョンと中期経営計画、それぞれ成果物は1つであるが、それを完成させるプロセスとアプローチは複数あり、各企業の状況や目的に応じて活用することが望ましい。

 

長期ビジョン策定に際し、このVUCA加速化の時代、外部環境を精緻に分析し予測することよりも、自社が切り開く未来の姿を、確固たる意志として示すことが重要である。そして逆に、激変する外部環境に適応すべく、戦略を含む事業計画は柔軟に変化させるマインドと姿勢が求められる。

 

山の頂上は1つしかないが、登頂ルートは複数存在し、天候によってプランを変える必要もある。重要なことは、臨機応変に計画をアップデートしながらも、到達すべき長期ビジョン(=未来のゴール)は不変であるということだ。

 

 

 

 

中長期ビジョン構築・推進支援コンサルティング

2030年に向けた長期ビジョンを描き、バックキャストした中期経営計画に、社会価値を高める要素を盛り込んだ新たなビジョンロードマップを創り上げます。

 

 

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Profile
村上 幸一Kouichi Murakami
タナベ経営 執行役員 ドメインコンサルティング東京本部長。ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案、マーケティング、フィージビリティ・スタディなど多角的な業務を経験後2007年タナベ経営に入社。2020年執行役員、ビジネスモデルイノベーション研究会リーダー。豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。中小企業診断士。
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